2023年5月12日

第194回「マレーシアと新二国間連携」

良好な関係
マレーシアと日本は、マハティール元首相が推進したルックイースト(東方)政策が2022年に40周年を迎え、良好な関係が継続している。しかし、当時の労働集約型産業、大量工業生産に適した熟練人材育成という時代が終わり、今やマレーシアは経済規模が約13倍に成長し、高所得国入りも目前となっている。これからの新時代を見据え、科学技術・イノベーション分野でも新しい二国間連携が求められている。

同国は、「国家科学技術イノベーション政策2021-2030」のもと、重点化すべき10の科学技術分野と10の社会経済分野をフレームワークとして掲げている。このうち社会経済分野では、エネルギー貯蔵やデジタル化といった先進テーマのみならず、イスラム金融やハラール食品などマレーシア特有の項目も掲げられており(表)、同国の特色ある発展ビジョンがうかがえる。

国際環境変化
また、マレーシアは、ペナン島(東洋のシリコンバレー)など、多国籍企業を巻き込んだ半導体サプライチェーンの一大拠点となっているが、最近の米中経済のデカップリング(分断)により、ますますこの分野での重要性が米中および世界中から認識されはじめている。

マレーシアの貿易相手国は中国がトップを占めており、東海岸鉄道計画などのインフラ整備をはじめ、デジタル通信、環境エネルギーなど協力関係が深化している。もともと、産業基盤確立と外資導入を進めた90年代半ばの「マルチメディア・スーパーコリドー」以来、情報通信技術分野などでは、中国大企業との連携協力は親和性が高い。一方、米国も22年に半導体サプライチェーン強靱化の覚書をマレーシアと締結している。

日本も、企業による対マレーシア投資は堅調であるが、より長期には教育や基礎研究面での協力の拡充が重要となるだろう。一例として、今年3月に両国政府が筑波大学マレーシア分校設置に向け覚書を交わすなどの動きも見られる。

マレーシアはイスラム国家であるが、多民族・多宗教を包摂する多様性の国でもある。国連の持続可能な開発目標(SDGs)などに代表されるグローバルな社会課題解決に取り組む上で、こうした多様な価値観を共有・反映することも大いに有益と思われる。

※本記事は 日刊工業新聞2023年5月12日号に掲載されたものです。

<執筆者>
宮崎 芳徳 CRDS特任フェロー(海外動向ユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。米国スタンフォード大学PhD取得。工業技術院、産業技術総合研究所で、地球科学、エネルギー、科学外交などに従事。タイ国のNSTDA(科学技術開発庁)、TISTR(科学技術研究所)を経て、20年より現職。タイ在住。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(194)マレーシアと新二国間連携(外部リンク)