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材料創製技術を革新するプロセス科学基盤 ~プロセス・インフォマティクス~

エグゼクティブサマリー

「材料創製技術を革新するプロセス科学基盤 ~プロセス・インフォマティクス~」とは、目的材料の合成プロセスを効率的かつ統合的に探索する技術基盤を確立するための研究開発戦略である。ここでは、プロセス・インフォマティクス(PI)を「従来からの実験科学、理論科学、計算科学と、近年の進展が著しいデータ科学を、統合的・融合的に活用することにより、目的材料の合成プロセスを効率的かつ統合的に探索する方法」と定義する。
PIを、所望の機能を有する物質・材料を効率的に探索するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)、プロセスの内部状態や生成物をリアルタイムに観測する計測インフォマティクスと組み合わせることで、物質・材料創製技術を次ステージに進化させることができる。また、データ科学活用による熟練者の経験知(勘・コツ)の取り込みや、物理化学的解析およびデータ科学的解析との組み合わせによって、各論的・局所的な議論に落ち込みがちであった合成プロセスに対する考え方を刷新し、汎用性のあるプロセス科学基盤へと拡充することをめざす。

ありとあらゆる場面で“材料”への期待が高まっている。MIは新材料開発において強力なツールとなることが実証されてきているが、候補となる新材料の組成・構造が予測されているものの、その材料が「実際に作れるのか」、「どう作るのか」まで示された例は少ない。
材料合成プロセスは、材料ごとに手法のバリエーションが多く、それを制御するパラメータも複雑であるため、統一的に扱うことが難しい。このため、個別プロセスの改良・最適化が主となり、最適なプロセスを科学的に探索するアプローチはとられてこなかった。しかし、近年のデータ科学の進展、シミュレーション技術の高度化、プロセスをリアルタイムに観測するオペランド計測技術の開発、ハイスループット実験技術の確立などにより材料合成プロセスを効率的かつ統合的に探索するPIに取り組むための環境が整いつつある。

本提言においては、以下の3つを取り組むべき研究開発課題として取り上げる。
①各材料領域におけるPI手法の構築: 有機材料、無機材料、複合構造材料などそれぞれの領域から中核になるプロセスを選び、そこから材料領域ごとにPI手法を展開していく。
②PI共通基盤構築: PI全体を加速する基盤的研究として、PIに適した機械学習アルゴリズムやシミュレーションの研究が重要である。実験データの収集方法、ハイスループット実験手法、ロボットの単位操作の共通化・標準化も重要な課題である。
③プロセス科学基盤拡充: データ科学によってプロセス特性を適切に表す記述子を設計することにより、それぞれのプロセスを新たなカテゴリーに分類して議論することができるようになる。これにより、プロセスを制御する重要な共通因子の把握が可能になり、各論的・局所的であった議論を刷新し、プロセス科学の基盤拡充につなげる。

上記の研究開発課題を推進していくために、対象プロセスごとにプロセスセンターを設置し、合成プロセス装置、評価・計測装置などを整備することが望ましい。PI共通基盤には、多方面の専門家の参画が必要でありバーチャル拠点でも可能だが、強力な連携を継続する拠点として設置する必要がある。各プロセスセンターと、共通基盤の拠点は強く連携させることが求められる。さらに、全体を束ねる仕組み(ガバニングボードなど)が必要である。人材育成としては、材料研究者とデータ科学者の知識・経験を融合させることが大切になる。産業界が参画する仕組みの整備、データ取扱ルールの設定なども重要な課題である。

※本文記載のURLは2021年6月時点のものです(特記ある場合を除く)。

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