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研究機器・装置開発の諸課題 - 新たな研究を拓く機器開発とその実装・エコシステム形成へ向けて -(—The Beyond Disciplines Collection—)

エグゼクティブサマリー

研究機器・装置開発に関する諸課題を取り扱う本報告書の問題意識の出発点は、今、わが国が研究力向上を掲げながらも、先端研究ニーズに応え得る研究機器の多くを産学官が自ら生み出すことが難しくなっている状況と、その多くを輸入に頼らざるを得ない状況に対する懸念にある。

輸入に頼る先端研究機器の場合、現場への導入において世界から年単位の遅れが生じ、調達コストも高額化する傾向にある。その結果、競争の激しい先端研究領域や、新たな研究領域の創出・開拓において、十分な研究活動の実施を困難にしている。独創的な研究開発には、研究者が自ら開発した技術や装置を用いることが鍵となる場合が多いが、現在わが国では、そうした新技術・新装置を開発する環境や仕組みは特に限られており、高度化・複雑化する先端研究機器においてはなおさら難しくなっている。

常に生まれ続ける新たな研究ニーズに導かれる技術開発と、新技術が搭載された機器を利用することによる先端研究成果創出、その研究成果を用いることで実現していく社会課題の解決とが、長期的に作用し合うことが求められる。いわば、長期の相互フィードバックループがスバイラルアップしていくような、イノベーションエコシステムの構築が必要である。

このような先端研究機器が関係するイノベーションエコシステムの構築には、未解決の研究ニーズを持つ研究者と、そのニーズに応えうる技術シーズを持つ研究者・技術者、そしてその技術を利用可能な機器として開発・具現化する機器メーカーとの、連携・融合による取り組みが重要になる。本報告書では、この仕組みを実現するためのモデルとして、技術シーズを創出する起点となる大学等研究機関、技術を機器に具現化する機器メーカーやベンチャー、利用研究ニーズを持つ研究者が早期に作用する場としての共用拠点、この3つの連携・融合による研究機器開発のイノベーションエコシステムの構築を提起する。

第1章では、「研究機器・装置の動向」として、研究基盤たる機器・装置への基本認識と日本における研究機器に関する現状と課題を述べる。第2章では、現在の研究機器産業の規模感や傾向を与える基礎情報として「研究機器の市場動向に関する調査」を整理して記載している。第3章では、これまでの研究機器開発に関する公的事業の取り組みを振り返るとともに、先端研究にゲームチェンジを起こしたイノベーティブな機器の事例を考察と共に紹介する。第4章では、研究開発活動の俯瞰調査を通じて見えてきた、計測・分析・加工・プロセス技術に関わる研究ニーズと、それらに応え得る可能性を持つ新たな研究機器の開発課題を整理している。第5章では、第4章までの調査・検討をもとに、研究機器開発に関する共通的な諸課題を明らかにし、研究開発ニーズに応え、新たな研究を拓く機器・装置開発と、その実装・エコシステム形成へ向けた論点整理・提起を取りまとめている。第6章では、海外における研究機器開発に関する政策的取組として、米国、ドイツ、中国の動向を紹介する。

独創的な研究開発を切り拓く新たな研究機器を、わが国が今後も創出し続けることができるかどうかは、科学技術・イノベーションの促進に欠かせない観点である。本報告書が、産・学・官・社会の幅広い関係者間での議論を活性化し、認識作りの契機となることを期待する。

※本文記載のURLは2021年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。

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