【プロジェクト紹介】貧困条件下の自然資源管理のための社会的弱者との協働によるトランスディシプリナリー研究

研究代表者:
佐藤 哲(愛媛大学社会共創学部 教授)
[専門分野:持続可能性科学・地球環境学]
佐藤 哲 教授

研究開発期間:
平成29年度~31年度

目次

研究の目的

 アジア・アフリカ地域を中心に、貧困状況下に置かれた人々のような社会的弱者の生活は、自然資源に強く依存しています。また、社会・環境変動に対して最も脆弱であると同時に、貧困層自身が資源に対して大きな圧力をかけている状況も見られます。

 世界的に見ると貧困層の割合は減少していますが、発展途上国においては、今後さらに増加する傾向が予測されており、農山村や漁村の貧困削減と生活の質の向上が喫緊の課題です。そこで、この研究では貧困下に置かれている人々との協働により、世界的に深刻な「貧困問題」を彼らの持つイノベーションで解消することを目指します。

<研究の全体像>

研究の全体像

研究の概要

各地にある「イノベーション」の収集

 研究代表者は、本研究に先駆けて、開発途上国において貧困下の人々との協働によるTD研究を発展させるため、「生活圏における対話型熟議」(Dialogic Deliberation in Living Sphere:DIDLIS ※注1)という手法を開発しました。

 本研究では、この手法を用いて貧困状況にあるステークホルダーと、彼らの生業活動の現場におけるレジデント型研究者、トランスレーター(単なる言語の「翻訳者」ではなく、異なる背景から生まれる知識の意味を伝えることができる人。大学研究者や地域NGO)等と協力しながら、ステークホルダーが自らが直面している課題や持っている知識に基づいて生み出している「内発的イノベーション(ツール) ※注2 」を抽出し、共に課題解決に取り組みます。その成果をツールボックスに集約します。研究者や貧困層の人々がツールボックスを利用することで、相互の交流・啓発・支援等を通じて、貧困層の福利向上、自然資源の持続可能な利用を実現して、貧困からの脱却を目指します。現在これらの取り組みは、インドネシア、タイ、フィリピン、フィジー、マラウィ、ギニア、トルコ、日本の8カ国10地域で進められています。

  • 注1:
    DIDLISとは、科学者(専門家)が、貧困層のような社会的立場の弱い人々の中のイノベーター(イノベーションにつながる知恵を持つ者という意味で、イノベーターと呼んでいます。)と対等な立場で、生活に極めて近い視点から共に対話を行う手法です。社会的弱者が活動する生業活動の現場などで、研究者・現地イノベーター・レジデント型研究者の三者が社会的弱者が直面する課題に関する対話を行い、今の思いや将来のビジョンを語っていただいて考えを深めます。
  • 注2:
    自然資源の持続可能な管理と活用による貧困層の生活と福利の向上に役立つさまざまな手法や仕組み
    →小さな工夫が積み重なり生業と生活のシステム自体に変容をもたらすもの

現地のステークホルダーによるイノベーションの実例

- 乾季季節禁漁の実施 -

南アフリカ大陸マラウィのマラウィ湖マラウィ湖のある漁村では安定した年間漁獲量を確保するために、毎年12月~3月頃、プランクトン食魚のカワスズメ科魚類に対して、グループ(Utakaと呼ばれている)の季節禁漁を実施しています。

この季節禁漁は、漁業関係者間の協議による自主的な取り決めです。乾季の漁業を禁じたこの取り組みは、自立的な水産資源の管理と付加価値のあるサプライチェーンの確立を促す漁民の知恵です。

この他、魚が集まりやすいスポットに湧昇流を発生させて効率の良い漁業を行う仕組みをステークホルダー ※注3と一緒に開発し、実装を進めているところです。

  • 注3:
    研究者、現地小規模漁業者、水産物トレーダー、コミュニティの首長や長老、および内外の関係者など。
    写真:南アフリカ大陸マラウィのマラウィ湖

産業セクターの効果的な参画

  • タイの小規模天然ゴム生産農家と複数の国際企業および国際NGOとの連携
  • インドネシアのカカオ生産におけるNGOや企業、及び貧困層に属する小規模生産者との密な連携
  • 産業セクターとの連携を深める内発的イノベーションとイノベーターの所在に関する調査を実施

多様なステークホルダーが集う場の創出

 貧困下の人々、特に地域でイノベーションを創造、牽引する人(イノベータ-)とツールの受益者、ツールボックスのユーザー、及び分野横断型の研究者が集い、イノベーション(ツール)の創発や活用を支援するプラットフォームである「世界フォーラム」の構築を進めています。

 貧困層の人々自らが、それぞれの地域の実情に即した自律的資源管理と生業複合を実現することで、貧困層の福利向上と自然資源の持続可能な利用を実現し、貧困解消につなげます。

人材育成などの基盤整備

貧困層と密に協働した活動を展開する地域組織やNGOの重要性が明らかになりつつあります。
本研究では、広く人材育成(Capacity Development)をミッションに掲げています。具体的には、地域に密着したトランスディシプリナリー・アプローチを展開できる地域組織・NGOを核としたイノベーターの育成と、その活動基盤を形成する仕組みを探索します。

イノベーションの普及

 地域特有の「知恵」の横展開にも積極的に取り組んでいきます。

  • ギニア(西アフリカ)の天日式製塩の知恵をフィジーで活用
  • マラウィ(東アフリカ)のリサイクル製品を使った生活向上の仕組みをインドネシアで展開

photo イノベーションの普及

関連情報

イベント等

  • 2021年4月、本プロジェクトの成果普及および認知度向上に向けて、プロジェクト紹介動画を公開しました。
  • 2018年9月25日~28日に、九州大学で世界社会科学会議2018(World Social Science Forum2018)が開催されます。本研究プロジェクトは、「Issue-driven and solution-oriented co-creation of knowledge partnering with marginalized people under poverty conditions」(CS6-03)と題したセッションを開催します。
  • 研究実施者の一人である榊原正幸氏の研究が、2018年6月より総合地球環境学研究所プレリサーチ(PR)として採択されました。プロジェクトのタイトルは、「環境汚染問題に対処する持続可能な地域イノベーションの共創」です。榊原氏のプロジェクトは、これまでのフィージビリティスタディ(FS)から一貫して、課題解決に向けたTD研究のアプローチを採用しており、今後、本プロジェクトは深く連携し、効果的でインパクトのあるTD研究を推進していく予定です。
  • 日本のSDGsに関する取組事例をまとめた冊子「Book of Japan's Practices for SDGs」に、佐藤PJが掲載されました(6ページ目)。

これまでの取り組み

関連する持続可能な開発目標(SDGs)

本研究開発に関わるSDGsは以下の通りです。

  • 目標1「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」
  • 目標9「強靭なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」
  • 目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」
  • 目標15「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」
  • 目標17「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」

関連リンク

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