JST-RISTEX「ゲノム倫理」研究会 ケーススタディ 2023 市橋プロジェクト市民グループインタビュー(GI)開催レポート

開催日:2023年(令和5年)9月27日(水)、9月29日(金)
会場:オンライン

RISTEXでは、2019年に「ゲノム倫理」研究会を設置し、ゲノム関連技術と社会のための倫理の考察や、調査研究を行っています。その一環として、今年度は、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)の「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」領域「自己再生産し進化する人工ゲノム複製・転写・翻訳システムの開発」プロジェクトを対象に、プロジェクト代表者である市橋伯一教授と、「ゲノム倫理」研究会メンバーで当該プロジェクトにかかわるELSIの論点を議論しとりまとめる試みを実施しています。第1回目の個別ワークショップ(WS)に引き続き、今回は市民グループインタビュー(GI)の様子をお届けします。

人工細胞は生物か-一般市民の応答とELSI-

GIには法学、経済学、公共政策、医学、工学などの勉強や研究を行っている多様な学生が集まり、日時を分けて行われた数人ずつのグループによるディスカッション形式のインタビューは終始和やかな雰囲気で進行しました。

参加者がそれぞれ自己紹介した後、まず、ELSI論点マップからゲノム合成領域で気になる論点をピックアップしてもらいました。第一印象としては、ゲノム合成特有の不可逆性、バイオセーフティや新しい医療の安全性、生命の尊厳など、多様な論点の関心が寄せられました。中でも多かったのが優生思想です。ゲノム合成技術によって、人間の能力や容姿をより良くできるようになると、優生思想が支配的な社会になってしまうといった不安感や懸念が多く寄せられました。

続いて、参加者は市橋先生からのビデオメッセージを視聴し、自らの理解や関心を深めました。1つ目のビデオメッセージでは、市橋先生が自身の研究や、その後の展望について簡単に説明を行いました。その後の話し合いでは、ネガティブな意見は少なくなり、参加者はゲノム合成技術によってもたらされる明るい社会への期待感を持っているようでした。たとえば、将来的に研究が行き着くかもしれない人工的な食品に関しては、食糧難の解決、生産の安定といった社会的な利益を強調する見解が目立ちました。一方で、人工物を食すことの抵抗感とその安全性、殺生をしないことによる生態系への介入、といった懸念についても慎重に意見が交わされました。

続いて参加者は、2つ目のビデオメッセージを視聴しました。ここで市橋先生は、自身の研究で扱っている存在が生物と言えるのか、といった根源的な問いを提起しました。参加者はこの問いに対して、生物の定義にまで踏み込んだ議論を展開し、意識がありそうに思われる存在が一般的な意味での生物であるとか、その判断は受益関係に依拠するといった各々の考えをはっきりと述べ、お互いの意見に触発されるような発言が相次ぎました。

図:増える人口生化学システムとは何か?
市橋先生のビデオメッセージから参照。
簡単な前提を説明していただき、参加者はそれを基に感想や自分の考えを述べた。

GIの後半では、これまでの議論を踏まえた上でELSI論点マップに立ち返り、参加者に再度気になる論点をピックアップしてもらいました。冒頭での論点とは異なり、食品安全や生命と物の境界など、これまでの議論を通して出てきた重要な論点がピックアップされ、参加者どうしの発言が影響し合うことで、より議題が絞られてきた印象があります。

参加者への最後の問いとして、人間と技術との関係、科学者のあり方、そしてゲノム合成の役割などの「そもそも論」として、より俯瞰的な視点から参加者の発言を求めました。ゲノム合成の役割については、社会における利益が論じられたほか、研究者のあり方に関連する議論として、科学者が倫理的な議論をする場の提供、一般市民へのヒアリングといった具体的な施策についての熱心な意見も聞かれました。

GIの最後にはチェックアウトとして、参加者個人の気づきを尋ねました。たとえば、大学で経済学を学ぶ参加者からは「みなさんが技術の進歩に信頼や一定程度の期待を持っていると感じ、興味深かった」との感想を残しており、GIを通じて参加者がゲノム合成にネガティブなイメージのみならず、ポジティブなイメージも抱いていることが明らかになりました。

写真:オンラインミーティングの一場面
参加者はELSI論点マップを活用しながら意見を交わした。

今後、本GIで提示された多様な論点をもとに、第2回個別WSを開催し、最終的には複数のケースを横断する合同WSを開催します。そこで論点や意見を統合し、報告書として公開する予定です。

TOPへ