開催日:2023年(令和5年)9月25日(月)、9月28日(木)、10月5日(木)
会場:オンライン
研究とビジネスの交点 -市民の応答と「ゲノム合成」-
GIには、生態学、物理学、医学、人類学などの研究を行っている学生、弁護士や弁理士の方々、そしてDIYバイオコミュニティBioClubの方々に参加いただきました。DIYバイオコミュニティとは、大学・企業の研究室ではなく、各自の自宅や自作の研究室で細胞培養や生物研究を行っているコミュニティのことです。日時を分けて行われた数人ずつのグループによるディスカッション形式のインタビューは、終始和やかな雰囲気で進行しました。
参加者がそれぞれ自己紹介した後、まず、ELSI論点マップからゲノム合成領域で気になる論点をピックアップしてもらいました。第一印象としては、ヒトへの応用、オープンアクセス、新しい医療の安全性、環境負荷低減など、多様な論点への関心が寄せられました。中でも多かったのが市民との対話です。市民とゲノム合成に関する倫理的問題や社会実装を議論する際に、どこまでの科学リテラシーが必要なのか、研究内容をいかに簡潔に伝えてもらえるのかといった市民目線での関心が多く寄せられました。
続いて、参加者は末次先生からのビデオメッセージを視聴し、自らの理解や関心を深めました。1つ目のビデオメッセージでは、末次先生が自身の研究や、その後の展望について簡単に説明を行いました。その後の話し合いでは、ゲノム合成の「得体の知れなさ」に起因する恐怖が強調されました。具体的には、技術的な内容を理解することが難しいため、市民としては何が起こっているのかわからずに、懸念や不安だけが前景化してしまうという意見がありました。そこから、一般市民と研究者の間で、「ゲノム合成」という言葉が与えるイメージの乖離に関する議論が展開されました。一方で、ゲノム合成の発展スピードに驚く声が多数寄せられ、医療に応用できるといった展望に関しては、ポジティブな意見が挙がりました。
続いて参加者は、2つ目のビデオメッセージを視聴しました。ここで末次先生は、自身の研究成果や技術が海外企業に買収されたことを踏まえて、参加者に意見を募りました。参加者はこれに対して、良い技術が世界中で広まる方がいいと思うので、海外企業に買収されても問題ないといった肯定的な意見を多く主張し、技術の普及という観点からの肯定的な意見が目立ちました。しかし、日本で誕生した技術が海外に流出してしまうのも残念だという意見も見られ、そこから参加者たちは日本企業の資金力についての議論や、日本の国力といった大局的な議論を幅広く展開しました。また、末次先生の会社が行っていたキット販売に関連して、悪意を持った個人による使用や法整備の問題も慎重に議論されました。
末次先生のビデオメッセージから参照。
簡単な前提を説明していただき、参加者はそれを基に感想や自分の考えを述べた。
参加者への最後の問いとして、人間と技術との関係、科学者のあり方、そしてゲノム合成の役割などの「そもそも論」として、より俯瞰的な視点から参加者の発言を求めました。科学者のあり方については、末次先生のように企業家と科学者を兼任する人物像を想定した科学者の多様性が強調されたほか、市民との対話に関しても発言が交わされました。冒頭の市民の科学リテラシーに関する議論を踏まえて、参加者同士が互いに触発されながら、義務教育での科学的知識、社会人になってからの学びなおしの機会、複雑な研究内容を翻訳する人材、といった具体的な取り組みにまで落とし込んでいたのが印象的でした。
GIの最後にはチェックアウトとして、参加者個人の気づきを尋ねました。たとえば、弁理士の参加者からは「研究者がワークショップなどで市民に対し、ゲノム合成の研究内容を説明する体験ができる場が増えるといいと思った。現状でもあると思うが、認知度は低そう。また、参加者が技術の進歩に信頼や一定程度の期待を持っていると感じ、興味深かった」との感想を残しており、科学者と市民の対話の重要性がGIを通して理解されるとともに、市民がゲノム合成技術に期待感を抱いていることが明らかになりました。
参加者はELSI論点マップを活用しながら意見を交わした。
今後、本GIで提示された多様な論点をもとに、第2回個別WSを開催し、最終的には複数のケースを横断する合同WSを開催します。そこで論点や意見を統合し、報告書として公開する予定です。