社会課題解決に向けた量子マテリアルの活用戦略

エグゼクティブサマリー

本戦略プロポーザルは、量子マテリアル研究を課題解決型の研究志向へと導き、将来的には次世代のICTシステムやエネルギーシステム、医療応用などにおける高性能・高効率な革新的デバイスとして社会実装へ繋げることを目指すものである。

わが国の経済成長と持続可能性を両立させるためには、高度情報化社会の実現、エネルギー高効率利用の実現、健康・長寿社会の実現などが不可欠である。AIやビッグデータ、スマートグリッド、ウェアラブルセンサーの活用が進む一方、データセンターの電力消費増大やエネルギーロス、高感度かつ低侵襲な診断技術の不足など、深刻な課題が顕在化している。化石燃料への依存を避け、持続可能な社会を築くためには、ICT機器の省電力化やエネルギー伝送の高効率化、新たな医療技術の確立が重要な鍵となる。しかし、シリコンの微細化や従来のエネルギーマネジメント手法だけでは限界が見え、より高い性能と効率を同時に実現するための画期的なブレークスルーが求められている。そこで期待されているのが、スピントロニクス材料、フォトニクス材料、低次元材料、トポロジカル材料などの量子マテリアルである。材料研究に強みを持つわが国にとって、これらの量子マテリアルがもたらす潜在力を世界に先駆けて切り開くことは極めて重要であるが、応用を目指した研究開発は限定的である。また、産学連携を推進する人材が不足しているのが現状である。

こうした状況を踏まえ、本戦略プロポーザルでは、量子マテリアルのキュリオシティ・ドリブンの基礎研究を社会課題解決に向けた研究へと展開するために、以下の研究開発課題の実施を提案する。

研究開発課題1.新規機能の発現に必要な材料物性の理解(目的基礎研究)
従来の物質では打ち破れなかった性能の壁を超える新規機能が期待される量子マテリアルについて、実用化を目的に置き、革新的な新規機能の発現に向けて、その物性を詳細に理解する研究を実施する。

研究開発課題2.量子状態を精密に計測・制御するための基盤技術の開発(活用基盤技術)
量子マテリアルの物性を詳細に理解し、新規機能を発現するデバイスとして実証するため、量子状態を精密に計測・制御するための基盤技術を開発する。

研究開発課題3.新規機能を実証する評価デバイスの開発(新規機能実証)
目的基礎研究と活用基盤技術の相互連携により見出した量子マテリアルの新奇物性を迅速に社会実装へ繋げるために、基本的な動作原理が確認された段階で、新規機能の実証を目的とした評価デバイスを開発する。

これらの研究開発課題を効率的に推進するために、以下の推進方策の実施を提案する。

推進方策1.産業界とアカデミアが密に連携した量子マテリアル活用R&D体制の構築
アカデミアと公的研究機関が協力し、目的基礎研究と活用基盤技術が相互連携した大型研究プロジェクトを進めることで、新規機能実証を目指す。さらに、量子マテリアルの魅力を持つ評価デバイスを本体制で試作し提示することで、スタートアップを含む産業界の参画を促進させる。

推進方策2.量子マテリアル活用R&D体制と海外との連携
日本が優位性を持つ研究・技術を明確にし、相補的な技術を有する世界の機関との連携や、世界の優秀な人材を活用し、応用に向けた日本の競争力を強化する。

推進方策3.量子マテリアル活用R&D体制における人材育成
量子マテリアルの基礎研究を社会実装に繋げるために、産業界との連携を推進する産学官連携コーディネーター人材や異分野連携研究を推進するURAを育成する。

※本文記載のURLは、2025年3月末時点のものです(特記ある場合を除く)。