- 材料・デバイス
量子マテリアル活用基盤技術の創出
エグゼクティブサマリー
本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が令和6年9月14日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ「量子マテリアル活用基盤技術の創出」に関するものである。
デジタル化が進展した近年において、大規模データの高速処理と低消費電力化の両立のような、既存技術の延長では克服が難しい問題が顕在化している。一方、量子マテリアルは、量子技術を支える基盤技術として研究開発が推進され、その過程で著しい進展を見せている材料や新たな材料も現れてきており、新規機能を実現する次世代ICTシステムや革新的エネルギーデバイスなどをはじめとした様々な応用の期待が高まってきている。量子マテリアルは、電子やスピン等の量子状態を人為的に制御することで新たな量子力学的機能を発現する物質・材料であり、その多くは日本が伝統的に強みを持つ固体物性研究の対象とされてきた。2020年1月に内閣府から出された「量子技術イノベーション戦略」では「量子通信・量子暗号」、「量子情報処理」、「量子計測・センシング」の3つが主要な技術領域とされる一方で、「量子マテリアル」はこの3つの技術領域を支える基盤技術の1つに位置付けられた。しかし、近年になって、広い分野に革新を起こす新たな量子マテリアルが出始めている。このような背景を踏まえ、JST-CRDSでは、様々な応用へ向けた量子マテリアルの研究開発が必要ではないかとの問題意識から、調査活動を進めてきた。
モアレ構造、非エルミート系、反強磁性スピントロニクスなどのエマージングな量子マテリアルにおける基礎研究が着実に進展する一方で、次世代デバイスとしての実用化を見据えた研究が限られている。この基礎研究と応用研究の間のギャップを埋めるためには、量子マテリアルR&Dを一気通貫に実施する研究開発体制が不可欠である。具体的には、社会実装に向けた課題を量子マテリアル活用R&Dにトップダウン的に取り入れ、基礎研究と活用基盤技術が相互に課題を共有し、新規機能を有するデバイスを実証する方向性こそが、日本が伝統的に強みを持つ固体物性研究と社会実装を繋ぐ架け橋になると考えた。そこで、その具体的な方策を考えるためワークショップを企画した。
本ワークショップでは、3つのセッションで話題提供がなされた。第1部「エマージングな量子マテリアルの基礎研究」ではモアレ超格子や非エルミート光学、スピントロニクスについて、第2部「量子マテリアル研究に求められる活用基盤技術」では量子マテリアルの合成・加工技術、理論、計測技術について、第3部「量子マテリアルの実用化に向けた取り組み」では企業における新規材料開発の取り組みについて、それぞれ情報提供と質疑応答が行われた。
最後の総合討論においては、3つの論点で議論が行われた。
- 量子マテリアルの新規機能の発揮に必要な材料物性を理解するために必要な目的基礎研究
- 量子マテリアルの材料物性を新規機能の発揮に繋ぐために必要な活用基盤技術
- 産業界を含む量子マテリアルR&Dを推進するために必要な方策
※本文記載のURLは2024年12月時点のものです(特記ある場合を除く)。