俯瞰ワークショップ報告書
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量子マテリアル研究の最前線

エグゼクティブサマリー

本報告書は、国立研究開発法人(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が令和5年3月19日に開催した『俯瞰ワークショップ ナノテクノロジー・材料分野区分別分科会「量子マテリアル研究の最前線」』に関するものである。

量子技術は産業、情報セキュリティ、国防、金融などに大きな影響を及ぼす革新技術と位置付けられ、米国の国家量子イニシアチブ法やEUのQuantum Flagshipプログラム等、世界各国で研究開発の重点化、拠点形成および人材育成等の戦略的な取り組みがなされている。さらに、昨今では、民間企業が中心となって野心的な目標を掲げて量子コンピュータ、量子ネットワーク、等の研究開発や事業化等の取り組みが加速している。我が国では2020年の内閣府「量子技術イノベーション戦略(最終報告)」において、量子技術の4つの主要技術領域として、「量子コンピュータ・量子シミュレーション」、「量子計測・センシング」、「量子通信・暗号」および「量子マテリアル(量子物性・材料)」が示されている。その中で、量子性を発現する量子マテリアルは、量子技術だけでなく幅広い分野への応用が期待され、我が国の産業競争力の強化につながる重要な領域である。我が国の大学・研究機関では、質の高い物性科学研究が長年行われておりその中で量子マテリアルに関する基礎的な知見が蓄積されている。そのような我が国の強みを活かすことで、量子マテリアルの社会実装を加速できると考えられる。

こうした状況に鑑み、量子マテリアル領域を俯瞰し、将来の可能性、応用に向けて解決すべき課題などを把握することを目的としたワークショップを開催した。

本ワークショップは以下に示す4つのセッションで構成されている。

セッション1「量子マテリアルの創製」

一般的に材料中で発現する量子性は非常に不安定であり、周囲の熱雑音等の影響を受けて容易に散逸する。そのため、室温等の実環境における量子性の安定性を高めるために、材料の高純度化や構造等の工夫が必要になる。主な話題は以下のとおり。

  • 量子液晶物性科学の取組みと成果
  • トポロジカル量子物質科学の現状と展望
  • 量子デバイス応用を目指したダイヤモンド成長技術

セッション2「量子機能の制御」

応用に向けて、量子マテリアルで発現している量子性を高精度で制御する機能を保ったままデバイス化する技術等が求められる。主な話題は以下のとおりである。

  • 量子マテリアルの物性
  • 量子機能の創製と制御
  • 粒子線を駆使した量子マテリアルの高機能化

セッション3「量子機能の応用」

量子マテリアルは、量子性を活用して従来の材料では実現が困難であった新規機能を発現させるエマージングな領域であるため、産業的に魅力的な応用先を示すことが研究開発の加速に不可欠である。主な話題は以下のとおり。

  • 二次元原子薄膜へテロ積層/接合材料のテラヘルツ波デバイス応用
  • 次世代情報技術基盤としての量子マテリアル開発
  • 量子技術を適用した生命科学基盤の創出の取組と成果

総合討論

セッション1〜3の話題提供を受けて、以下の3項目について討論を行った。

  1. 量子マテリアルで今後取り組むべき研究項目
  2. 応用に向けてステップアップに必要な研究課題と要素技術
  3. 研究を効果的に加速させる研究開発体制・必要な施策や仕組み

※本文記載のURLは2024年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。