「総合知」に着目した科学技術・イノベーション政策のデザイン
エグゼクティブサマリー
科学技術・イノベーション基本法の改正に伴い、第6期科学技術・イノベーション基本計画では「総合知」の考え方を新たに導入し、戦略的に推進していくものと位置付けられた。本報告書はこの総合知の取り組みについて、国レベルの科学技術・イノベーション政策の観点から、第7期基本計画の策定に向けた方向性と、総合知の実践を促進する方策のさらなる具体化に向けて調査を行った結果を報告する。
基本認識として、社会システム変革を目指す上で、あらゆる知を統合するプロセスである「総合知」の実践は不可欠である。科学技術・イノベーション(以下、STI)の推進において普遍的に必要なことであり、国の政策としても継続して重視することを明言すべきである。ただし、対象となる社会課題や科学技術の特性に応じて、総合知のあり方・発現の仕方は多様であることに留意すべきである。総合知を推進する政策を検討する際には、国家戦略に基づく科学技術・イノベーション政策のポートフォリオを踏まえ、それぞれに応じた「総合知」の活用ポイントを見極めた適切な政策デザインを行うことが重要である。
科学技術・イノベーション政策のポートフォリオのうち、「総合知」の実践が重要な役割を果たすと考えられる、以下の3つの区分について、それぞれの特性を踏まえた「総合知」活用のポイントと基本的方向性を提案する。なお、本文では具体的な施策案についても述べているので参照されたい。
1. 社会システム変革に向けたミッション志向型STI政策の推進
国レベルで重要かつ社会システム変革を伴う取り組みが求められる社会課題(グランドチャレンジ)に対して、国の長期戦略の下、期間を定めた計測可能な政策目標(ミッション)を設定し、その早期実現を目指す科学技術・イノベーション政策を推進することが必要である。ここでの総合知活用のポイントは、戦略的・総合的な取り組みの「ビジョン形成から課題設定段階」のデザインに注力することである。
2. STIエコシステムの形成に向けた大学等を起点とするスタートアップ・エコシステム改革の促進
科学技術・イノベーション政策として、国の戦略として推進されているスタートアップ・エコシステムの形成に関する既存政策と連動し、自由かつ競争的な研究・実践の環境整備など、大学等による自発的な取り組みの更なる支援を行うことが必要である。ここでの総合知活用のポイントは、「社会課題と研究の結びつき」「学びの機会」「人材育成」の一体的な仕組みを構築することにある。
3. 重要・新興技術の振興と戦略的技術ガバナンスの強化
AI、バイオ、量子、マテリアル、フュージョンなどに代表される重要・新興技術に関する先見的かつ戦略的な技術ガバナンスの強化と、価値の共有に基づく国際連携への取り組みを強化する必要がある。ここでの総合知活用のポイントは、各分野の技術ガバナンスに関する国際水準のルール・規範形成の迅速な議論と、研究・イノベーションプロセスにおけるELSI/RRI実践とが連動する、戦略的な「ネットワーク同士の結びつき」の仕掛けにある。
上記3つのポートフォリオ区分に共通して、「総合知」の実践を促進する政策検討の前提とすべきは、「国家戦略の下での研究開発戦略のデザイン」、「戦略・政策と研究開発の階層をつなぐ国研等の機能」、そして「研究、実践、教育が融合する大学の機能」が重要であること、これらが全てに通底するメッセージである。

図 科学技術・イノベーション政策のポートフォリオ案
※本報告書の参考文献としてインターネット上の情報が掲載されている場合、当該情報はURLに併記された日付または本報告書の発行日の1ヶ月前に入手しているものです。