調査報告書
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海外の「総合知」事例 -社会課題解決に向けた研究・イノベーションにおける知の融合-

エグゼクティブサマリー

本報告書は、海外のファンディング・プログラムや大学・研究機関における「総合知」の取り組みについて、専門分野を超えた「学際・融合」と多様なステークホルダーとの「共創」を推進する方策やユニークな設計に着目し、13の事例調査を行った結果を報告するものである。

調査の結果、社会課題起点と科学技術駆動の事例では、総合知の発現の仕方が異なることが確認できた。各事例に共通する点は、分野・テーマの特性に応じた「ガバナンス」「経済・ファイナンス」「個人・集団の行動」「科学・技術」「人材育成」の要素が具体的に組み込まれていることである。今後の「総合知」の方策を考える論点と示唆は、以下のとおりである。

(1) エコシステムの視点に基づくプログラム・デザインをする

社会課題起点の事例は、課題解決に向けたミッション志向型の「デザイン」に特徴がある。複雑な構造をはらむ社会システムの変革に向けて、課題分析や研究開発要素の精緻な構造化などを行うデザインの部分に最も注力している。同時に、社会起業家の育成やインパクトファイナンスなどの新しいシステム創出にも取り組んでいる。
科学技術駆動の事例では、新興技術やタフテックのいち早い社会実装に向けて、人間・社会を対象とした学際・共創研究は必須である。技術進展の先に見据えるビジネス展開を通じた課題解決を視野に、アクセラレーターモデルの適用、ガバナンスやELSIへの取り組み、段階的かつ重層なファイナンスなどに特徴がある。また、総合知の実践力を育てる「マネジメント」に注力している。
社会課題起点あるいは科学技術駆動の違いを見極め、目指すべきエコシステムの方向性を定めた上で、それぞれの状況や特徴に応じて適切に「総合知」の発現のプロセスを組み込むことが重要である。

(2) アジャイルなプロセス&マネジメントの意義を明瞭化する

社会課題起点、科学技術駆動それぞれの特徴に応じて、アジャイルに取り組む上での規模や時間、タイミング、スピードが異なる点は留意しなければならない。多くの事例に見られる、ハンズオン、アドバイス、メンタリングなどのプロセスやマネジメントはいずれも日本語では広義の「介入」にあたるが、その意義や効果などそれぞれの違いを明瞭化し、適切な実践方法に落とし込むことが必要である。

(3) 研究、実践、教育を一体的に考える

多くの事例に共通して、研究、実践、教育が一体的に取り組まれている。企画検討やチームビルディング、ステークホルダーとのネットワーキングの機会なども支援対象となっている。また、そのための環境や基盤の整備、サービスがそれを可能にしている。人・資金・知識の流動性・多様化を図るために、既存の組織やファイナンス、パートナーシップの枠組みをも柔軟に変えていく挑戦が見てとれる。

(4) 戦略的な公的投資がトリガーになる

各国・地域の社会背景や政策課題に即して、それぞれの強みを生かしたイノベーションエコシステムと連動している。特に社会課題起点の取り組みについては、公的投資が必要との判断がなされていることが窺える。また、これらの戦略やシステム・デザインを考える上で、政策立案やガバナンスに関するシンクタンク機能を充実させている。日本の政策における中心課題と、それに応じた研究・イノベーションエコシステムの方向性について議論を深め、推進方策を検討することが求められる。

各国においても多くの取り組みが緒に就いたばかりであり、継続的に見ていく必要がある。また、その取り組みの背景にある政策の全体像についても、今回得られた示唆・論点に基づく深掘りとともに、引き続き調査を行っていく予定である。

※本文記載のURLは2024年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。