戦略プロポーザル
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科学技術・イノベーションの土壌づくりとしてのELSI/RRI
戦略的な科学技術ガバナンスの実現に向けて

エグゼクティブサマリー

本プロポーザルは、科学技術・イノベーション(STI)を通した日本の国際競争力の強化やよりよい未来社会の実現を着実に推進するため、STIに係るルール・規範形成を戦略的に推進する3つの方策を提案する。それにより、研究開発から社会実装へと至るイノベーションプロセスの初期段階におけるELSI/RRIの実践と、STIに係るルール・規範形成とが連動する状態をつくること、すなわち、「科学技術・イノベーションの土壌づくり」を目指す。

社会課題の解決や社会変革に資するイノベーションを創出するためには、研究開発を通じた技術革新と併せて、日本社会がもつ価値観の言語化を試み、ステークホルダー間で一定の規範を共有しながら、その技術の開発・利用に関わるルール形成を推進すること(ルール・規範形成)が重要になってきている。とりわけ、科学技術の萌芽段階から社会への実装までのタイムスパンが短くなっている昨今、研究開発と並行してルール・規範形成にも早期から取り組むことがこれまで以上に求められている。

今日、STIに係るルール・規範形成の議論は、科学技術の萌芽段階、あるいは社会課題解決や社会変革のためのシナリオや手段が明確になっていない段階から始まっている。このルール・規範形成の「上流」段階での活動と関連が深いのが、倫理的・法的・社会的課題(ELSI: Ethical, Legal and Social Issues)、および、責任ある研究・イノベーション(RRI: Responsible Research and Innovation)である。ELSI/RRIとは、イノベーションプロセスの初期段階から科学技術の影響を探索的・予見的に把握・対応することで健全な社会実装を目指し、実現したい価値の創造に向けて、社会との応答を通してよりよい知識生産のあり方を追求していく諸実践である。

第6期科学技術・イノベーション基本計画では「総合知」の活用を通した新たな価値の創出が謳われており、その具体化のためには、研究者や多様なステークホルダーによる共創が不可欠であること、また、複雑化する社会課題の解決や新たな科学技術の実装のために、研究開発の初期段階からELSIへの対応を促進する必要性が述べられている。社会的影響が大きい新興技術については特に喫緊の課題であり、研究開発コミュニティのなかからも、自発的に取り組もうという動きが各分野で見られる。

こうしたELSI/RRIの実践は本来、世界的に加速するSTIに係るルール・規範形成への時宜を得た参画・対応につながるものである。本プロポーザルでは、ELSI/RRIの実践をルール・規範形成の議論も視野に入れたものに広げるために、政策ないしアカデミアが主導的・中心的に5~8年程度のスコープで具体的に進めるべき取り組みとして以下の3つを提案する。

提案1 ルール・規範形成と研究開発の現場をつなぐハブ機能の強化
科学技術の進展や社会課題の展開と同時併走して、国際的な水準でELSI対応が可能なハブ機能を強化し、研究開発における予見的取り組みと、研究開発戦略の検討とを有機的に接続する。

提案2 国のSTI政策の下に推進する研究開発プログラムにおけるELSI/RRI実践の拡張
国のSTI政策の下に推進する大型の研究開発事業・プログラムにおいては、ルール・規範形成を強く志向したELSI/RRIの実践を、事業のマネジメントレベルの活動として行う。

提案3 研究開発とルール・規範形成をつなぐ多様な人材の確保
知識と人材の高度化を図るために、教育・研究の現場で多層的にELSI/RRIに触れる人材育成とキャリア形成を推進し、人材の多様化を図る。


図 提案によって目指す姿

※本文記載のURLは2023年5月時点のものです(特記ある場合を除く)。