AI時代を牽引する光デバイス技術

エグゼクティブサマリー

本調査報告書は、今後の社会のデジタル化やAI技術の普及に不可欠となる、データセンター内における超高速光通信技術とそのコアである光デバイス技術に注目し、国内外の現状と今後の課題、研究開発の方向性などをまとめたものである。初めに、光通信システムの分類と基本的な構成について述べ、続いて、データセンター内における光通信システム導入の現状と今後の動向、光デバイスの技術動向、課題、研究開発の方向性について記載している。

近年、デジタル化の進展により、膨大な量のデータをクラウド上で保存、分析・解析し、各種のサービスを提供する高性能なデータセンターが世界各地に構築されている。サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合したCyber Physical Systemの中核を担うものである。また、機械学習、大規模言語モデルなどのAI技術の進展が著しく、それらの学習に使われるデータ量や積和演算などを行う計算量は急激に増加している。このような背景から、メガデータセンター内の処理能力の向上・大規模化への要請が急速に増し、データセンター内のデータ通信については、従来の電気配線では高速化に伴い電気損失と消費電力が急増し適用限界になっており、ここ数年間で、電気配線から、超高速動作が特長の光通信技術による光配線への質的な転換が進んでいる。

以下、本調査から見えてきたデータセンター内の超高速光通信技術および光デバイス技術の動向、今後の課題、研究開発の方向性などの主な項目を示す。

  • 1) データセンター内における超高速光通信技術の動向
    • ① 現状と動向
      • ・ここ数年間でサーバーラック上部まで光配線技術が導入され、電気配線から光配線へと急激に置換
      • ・AIに対応するメガデータセンターでは、独自のアーキテクチャーによるAI/MLクラスターが主流
      • ・消費電力の低減に向けサーバー構成のディスアグリゲーション化への移行
      • ・ネットワーク帯域拡大に向けて、サーバーラック内における光スイッチ・光リンク技術の導入
    • ② 光トランシーバーと光デバイスへの期待
      • ・超高速動作化、低消費電力化
      • ・光の特長である並列性を活かした大容量光通信技術化
      • ・画期的な低消費電力化に向けたLPOおよび光デバイスとスイッチASICを近接実装するCPO対応
  • 2) 光デバイスの技術動向
    • ① 現状
      • ・メガデータセンター内の超高速動作に対し光の優位性を活かし400 Gbit/sまで高速変調動作を達成
      • ・日本の強み技術であるInP系半導体光デバイスは光通信システムに大きく貢献し、現在でも光デバイスの国際会議論文数、超高速光デバイスでの市場における世界トップシェアを保持
      • ・経済安全保障、化合物半導体産業の強化などの視点から、米国、欧州、中国、台湾光通信用光デバイスに注力中
    • ② 課題
      • ・メガデータセンター内のさらなる高速化(1.6 Tbit/s ⇒3.2 Tbit/s ⇒6. 4 Tbit/s)への対応、LPO、CPO等革新的な方式への対応に向けた光デバイスの超高速動作、高温安定動作、低消費電力化・小型化
    • ③ 2030年代に向けた研究開発の方向性
      • ・InP系半導体光デバイス:レーザ光源として普遍・不可欠と共に、さらなる超高速変調、低消費電力化
      • ・シリコンフォトニクス: 既存のシリコンの集積回路プロセス装置での低コストチップ製造
      • ・InPを凌駕する新材料光デバイス:InPに勝る可能性のある材料の適用・新材料の探索とそのデバイス化
      • ・異種材料集積技術: InP系、シリコンフォトニクス、新材料系などを大融合するプロセス技術

※本文記載のURLは、2025年3月末時点のものです(特記ある場合を除く)。