通信と計算の融合による社会のスマート化
エグゼクティブサマリー
本プロポーザルは、社会のスマート化を実現するために通信と計算を融合させるという視点で、目指すべき方向、重要な研究開発課題および研究開発の推進方法を提案するものである。
近年、光回線や5Gなどの通信技術、クラウドコンピューティングやGPUなどの計算技術の発展により、実世界にある大量かつ多様なデータをサイバー空間で処理・分析し、その結果を実世界にフィードバックして社会問題を解決していくサイバーフィジカルシステムが実現されてきている。これらがもたらす遠隔化、自動化、省力化などをより高度にすることが、今後、デジタルツイン、自動運転・自動制御、メタバースのさらなる発展へとつながり、社会のスマート化が加速することが期待されている。一方、サイバーフィジカルシステムを実現するためには、システムの高性能化に伴う消費電力の増大や複雑化に伴う運用の難しさという問題にもあわせて対処していくことが求められている。また、大量かつ多様なデータの活用が技術確立やビジネス化の競争力の鍵にもなっている中、データ利用時の権利範囲や安全性にも配慮していくことが必要である。
本プロポーザルでは、このような問題認識を踏まえて今後取り組むべき研究開発課題を、
- ① 状況や意図を捉えて通信・計算を効率化する技術
- ② データを獲得源の近くで利活用する技術
- ③ 性能や機能の高度化と低消費電力性・頑健性とをバランスさせる技術
- ④ データを安心して利活用できるようにする技術と方策
の四つに整理した。その上で、①~③については以下を解決のアプローチとし、解決が難しい点を列挙した。①遠隔化・自動化・省力化をより高度にするために、システムの状況やユーザーの意図を捉えて、限られた通信および計算のリソースを効率的に使う、②データセンター等での一極集中の限界を見越し、可能な処理は末端(エッジ)で行う、③光活用等により低消費電力化を図るとともに、地上と宇宙などの非地上とを統合した通信網を構築して障害や災害に対する頑健性を高める、といった対策を詳述した。また、④については、個人情報保護も踏まえたデータ管理・運用により安心してデータを利活用するために、人文社会科学的な観点を含むプロセス作りの必要性ならびに技術的な解決策について取り上げた。
これらの課題に対しては、従来さまざまな取り組みがなされており、個々に成果が創出されている。一方、アーキテクチャーやサービス・運用のレイヤーにおける基礎理論研究への投資が十分になされていないなど投資対象に偏りがあったり、成果が自己完結(サイロ化)しているためにプロジェクト間で成果をつなげられていなかったり、あるいは成果が発明にとどまり産業化へ向けたイノベーションへと流れていないケースが見受けられる。
本プロポーザルでは、通信と計算の分野の研究開発推進に関するこのような現状認識に対して、
- 1) 基盤のレイヤーに加えて、アーキテクチャーやサービス・運用のレイヤーおよびそのための基礎理論研究への研究開発投資
- 2) レイヤー間や通信・計算といった領域間をまたいで研究開発を実行するコミュニティーの立ち上げと継続的な強化
- 3) 産業的価値の獲得を主眼としたプロジェクトの実行促進と、それを担う人材の育成
の三つの推進策を提案する。
今、さまざまなかたちで通信と計算の融合の取り組みが始まってきている。これらの機運の高まりを生かして、社会のスマート化の加速に向けて研究開発活動を活発化させることが望まれる。
※本文記載のURLは、2025年2月末時点のものです(特記ある場合を除く)。