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論文・特許マップで見る環境・エネルギー分野の俯瞰とマテリアル関連研究の波及・展開

エグゼクティブサマリー

本調査は、2050年のカーボンニュートラルの達成を目指す世界的な動向を踏まえ、環境・エネルギー分野の論文および特許情報を基に本分野の対象となる広範な技術を俯瞰的に分析することを目的としている。これにより、論文・特許空間における各国のポジションや注力分野、年変化を定量的に把握することで、我が国の研究開発戦略の判断に資する基礎的な情報を得ることを意図している。またグリーン社会実現のためにマテリアル分野の貢献が期待されている状況を踏まえ、本調査では環境・エネルギー分野におけるマテリアル関連研究の波及・展開の動向把握も目指すこととした。

はじめに環境・エネルギー分野に関連する論文・特許の母集団を作成し、それらに含まれる情報に基づき論文・特許をクラスタリングし、マップとして可視化した。さらに、その中からマテリアルに関連する文献を抽出し俯瞰マップ上で可視化した。また、多数の論文・特許で構成される技術領域、および関連文献数が現在のところ数十件程度に留まるエマージングなキーフレーズを対象に、成長可能性判定を実施し、今後の伸びが期待され、かつ環境に配慮しつつグリーン社会移行に貢献する技術テーマの推定を試みた。

分析の結果、国により注力分野が異なる様子が俯瞰マップ上で示された。中国は多岐にわたる技術領域がみられ、その広範な分布と文献数の増加から、他国を圧倒する顕著な成長が示された。中でもリチウムイオン電池や触媒、環境関連技術の文献が多くみられた。米国でも広範な技術領域の分布がみられた。特に気候変動分析に関する文献の数が相対的に顕著であった。日本ではペロブスカイトPVやリチウムイオン電池関連文献の数が相対的に顕著だった。

特許件数の年次推移からは、太陽光発電に関する特許件数が近年横ばいである一方、蓄エネルギーに関する特許件数が増加傾向にあることが示された。太陽光発電技術が市場導入のフェーズへ進み、それに伴い再生可能エネルギーの貯蔵・輸送技術の開発が求められていることが推察された。

環境・エネルギー関連分野の様々な領域にマテリアル関連研究が展開している様子も確認された。エネルギーのみならず環境関連分野にもその広がりが見られ、循環型社会や環境汚染の改善・防止にむけた技術開発にもマテリアル関連分野が貢献している構造が示された。蓄電池に関連する領域では、実用化と急速な普及の拡大を背景に、デバイス研究とマテリアルに関する研究が互いの必要性を喚起し、両者の文献数が共に増加していく関係性にあったと推察された。

本調査は、研究開発戦略立案に資する基礎的な情報のひとつとして、論文・特許の定量的な情報に基づいて環境・エネルギー分野の俯瞰的構造をマップとして提示するとともに、研究開発動向に関する調査・分析結果を提供するものである。本検討では、環境・エネルギー分野とマテリアルに関する基盤技術の関係性の一端を定量的な情報に基づき示すことができた。

マテリアル関連研究の成果が環境・エネルギー分野に浸透していく、あるいは相互が影響を及ぼし合い発展していく関係にあることを念頭に置き、カーボンニュートラルの実現に向け量的貢献可能な技術の普及と導入を視野に入れ、分野間の連携を強化することが今後重要である。また、再生可能エネルギーの普及に伴う技術ニーズの変化を見通し、カーボンニュートラルに向けた一過性のシステム導入に留まらず、その次の段階で必要となるデバイスが何かを見据えた研究開発を行うという視点も重要である。

論文・特許の定量的な情報はあくまで過去に関する情報であり、分析には限りがあるが、経験から得られる認識の裏付けや将来に向けた様々な示唆を得ることもできる。CRDSでは引き続き検討を行う予定である。

※本文記載のURLは、2025年1月末時点のものです(特記ある場合を除く)。