研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2024年)
エグゼクティブサマリー
先端材料およびデバイス技術は、様々な分野で私たちの生活を支えている。これらの技術は、スマートフォン、自動車、ロボット、通信などにおいて情報処理機能・通信機能の中核を担うとともに、カーボンニュートラル実現に向けて太陽電池、蓄電池、パワー半導体、磁石・磁性材料、水やCO2の電気分解セルや分離膜などの各種デバイス・素材に貢献する。また、ヘルスケア・医療の分野では、COVID–19感染症ウイルスのmRNAワクチンなどのナノ医薬、早期診断や生体情報モニタリングに用いられる高感度センサーデバイス、がん・脳疾患などの予防・診断・治療用の機器・素材などに用いられている。ナノテクノロジーは、このような先端材料技術やデバイス技術の研究開発の基盤である。
近年の不透明な国際情勢の元、グローバルサプライチェーンへの信頼が失われたことで、世界各国で経済圏のブロック化の兆候や資源・重要技術の安定確保に向けた動きが先鋭化している。こうした中で、我が国がこれまでに強みを持ってきた材料・デバイス関連の技術も新興国の著しい追い上げにより、競争力を失う恐れも大きくなってきている。また、かねてから指摘されているように、我が国は、基礎研究における強みを国際的なビジネスの強みに繋げられない傾向があり、また、標準化・規制戦略・産学連携などに関して諸外国に後れを取る面がおおいなどの課題を抱え続けている。
本報告書では、このような国内外の社会・経済および研究開発の動向と日本の課題を俯瞰的に調査・分析した。調査にあたっては本文野を報告書第2章に記載する7つの区分・29の研究開発領域として捉えて分析を行い、以下に示すような、わが国として今後重要となる12の研究開発を特定した。
- 先進半導体材料・デバイス技術
- 量子特有の性質の操作、制御、活用
- 電気–物質エネルギー高度変換技術
- マルチスケール熱制御技術
- 資源循環と炭素循環を両立する材料技術
- 生体適合性の拡張的理解と制御
- 生物機能を活かすハイブリッド材料
- ナノスケール高機能材料
- 極限環境下の高信頼性材料
- マテリアルDX基盤技術
- オペランド・マルチモーダル計測
- 新物質・新材料の戦略的ガバナンス
これらの検討に際しては、次の3つの観点「社会の変化がもたらす新たな科学技術への要請」、「科学技術の新たな潮流出現に伴う戦略的投資の必要性」、「日本の産業競争力と国家安全保障の観点で重要な技術の確保」を考慮した。また、研究開発の過去から現在にかけて各分野の世界の中での位置づけや状況を文献データからも捉えるため、2024年3月に発行した「論文・特許データからみる研究開発動向(2024年)」より、最先端の研究開発動向等を補強したものとなっている。
※本文記載のURLは2024年9月時点のものです(特記ある場合を除く)。
目次
研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2024年)
1.俯瞰対象分野の全体像
- 1.1 俯瞰の範囲と構造
- 1.1.1 社会の要請、ビジョン
1.1.2 科学技術の潮流、変遷
1.1.3 俯瞰の考え方(俯瞰図)
- 1.1.1 社会の要請、ビジョン
- 1.2 世界の潮流と日本の位置づけ
- 1.2.1 社会・経済の動向
1.2.2 研究開発の動向
1.2.3 社会との関係における問題
1.2.4 主要国の科学技術・研究開発政策の動向
1.2.5 研究開発投資や論文、コミュニティー等の動向
- 1.2.1 社会・経済の動向
- 1.3 今後の展望・方向性
- 1.3.1 今後重要となる研究の展望・方向性
1.3.2 日本の研究開発の現状と課題
1.3.3 わが国として重要な研究開発
- 1.3.1 今後重要となる研究の展望・方向性
2. 俯瞰区分と研究開発領域
- 2.1 環境・エネルギー応用
(区分総論)
- 2.2 バイオ・医療応用
(区分総論)
- 2.3 ICT・エレクトロニクス応用
(区分総論)
- 2.4 社会インフラ・モビリティ応用
(区分総論)
- 2.5 物質と機能の設計・制御
(区分総論)
- 2.6 共通基盤科学技術
(区分総論)
- 2.7 共通支援策