調査報告書
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論文・特許マップで見るナノテクノロジー・材料科学とライフサイエンス・臨床医学の融合展開

エグゼクティブサマリー

超高齢社会を迎えたわが国では、医療やヘルスケア技術の高度化や多様化、またそれらの礎となる生命現象への高次な理解への追究が一層求められるようになっている。

今日までのライフサイエンス・医学研究の発展は、関連する他諸分野の貢献なしに得られるものではなく、特にナノテクノロジー・材料科学分野は、従来からライフサイエンス研究の基盤技術や医学研究・臨床医療ツールの提供を通して、密接な関係の中で大きな寄与を果たしてきた。

分野融合的な研究開発の方向性を見出すうえでは、学問分野分類に対応した組織体制や研究者コミュニティなどの枠組みに必ずしも適わないからこそ、論文および特許の客観データに基づいて動向や関係性を把握することが有用となる。本調査は、ライフサイエンス・臨床医学分野とナノテクノロジー・材料科学分野に跨る範囲の論文および特許について、マッピングとクラスタリングにより関係性を可視化、俯瞰的分析を行い、当該融合分野の研究開発戦略の判断に資する情報を得ようとするものである。

調査の結果、「計測・分析デバイス」が中核となり、それを利用する「基礎生命科学」「医療」「医用材料工学」が展開する、という典型的な関係性が見出された。また、論文情報やナノテクノロジー関連情報に注目することで、生体分子設計、バイオマテリアル、ナノ医薬などの技術でも、両分野が連関していることが示唆された。論文数・特許数の主要国別の比較では、中国が近年急速に成長し、米国とともに他国を圧倒している。日本は、論文では遺伝子発現機構や再生医療・幹細胞治療、特許ではウェアラブルデバイスや、生体用接着剤、基材などの研究開発が相対的に多いと見られた。加えて、今後成長が見込まれる技術・領域として、がん、転写因子、シーケンス技術・シングルセルRNAシーケンス、RNA編集、CAR-T細胞、エクソソーム、マイクロ流体デバイス、ナノ医薬・DDS、組織工学技術、ナノポアシーケンス、などが見出された。

本調査では、両分野間に密接な関係あるいは重なりがあることが改めて確認された。この分野融合の姿は、今後新たな生命現象の発見や新規技術の出現により、常に変容していく可能性がある。両分野が相補的あるいは一体的に発展していく関係にあることを理解し、俯瞰的な視点で有効な戦略を見出していくことが重要である。本調査は、これまでの論文・特許の客観情報に基づいて本融合的分野の一つの構造(地図)の提示を試みるとともに、研究開発動向に関する調査・分析結果を提供するものである。

※本文記載のURLは2023年7月時点のものです(特記ある場合を除く)。