調査報告書
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未来洞察に関する諸外国の政策上の取り組み ~今後の研究開発戦略やファンディング領域の検討に向けた基礎調査~

エグゼクティブサマリー

本報告書の目的は、諸外国で実施されている未来洞察に関する政策上の取り組みを概観し、参考事例や重要論点を整理することで、我が国で今後、研究開発戦略の策定やファンディング領域の設定のあり方を検討する際の基礎資料を提供することである。

技術革新が急速に進み、産業構造や社会生活にもたらす影響が広範かつ複雑になっている昨今、新たな事態の展開やリスクが顕在化してからではなく、未来に対して想像力を働かせて、先を見越した取り組みを積極的に進めることが科学技術・イノベーション(STI)政策に求められている。これは研究開発の戦略策定やファンディングプログラムの領域設定の検討にも同じく当てはまる。科学技術の発展や社会変革の兆し、新しい研究開発の萌芽的トピック、その開発や実装に伴う潜在的・顕在的課題群(倫理的・法的・社会的課題や経済・環境への影響、安全保障上の含意等)をいかに把握するか、そのような未来洞察により得られた分析や知識を戦略策定や事業開発の検討にいかに機動的に反映させるかが、STI政策における喫緊の課題として国内外で強く認識されている。

本調査は、未来洞察に関する政策的な取り組みを中心に、文献や公開情報に基づくデスクトップ調査と諸外国の関係機関に対するインタビュー調査を行い、海外における未来洞察の基本的な考え方、実施体制、活用事例、手法やプロセス、政策・事業への反映を可能にしている運営上の取り組みや工夫等について検討を行った。

未来洞察の手法は多様であり、また、扱われるテーマや実施の目的などには大きな幅があるが、調査を通して以下のような共通の問題意識や取り組みが確認できた。

  1. 未来洞察の意義
    • 未来洞察の意義は、将来の様々な可能性について、その相互作用を理解・学習することで、政策立案者がシナリオの多面的な側面や別のシナリオの可能性に意識を向け、考える能力を高める点にあるという共通理解がある。
    • 政策的な意思決定に対して未来洞察の直接的な貢献が重視される一方で、本質的に未来を言い当てるものではないという両義的な性格を踏まえたプロセスの作りこみや結果の解釈がなされている。
  2. 未来洞察の手法・プロセス
    • 未来洞察の実施にあたり、量的・質的手法をどのように組み合わせて結果を導出するのかについて、個々の事例が置かれた文脈に応じてあらかじめ設定され、方法論として明示化されている。
    • オープン(開放性)やインクルーシブ(包摂性)といった考え方を重視し、専門家の選定やワークショップの設計、多様なステークホルダーのエンゲージメントの仕方を、意図をもって工夫し、特定のバイアスに偏ることを回避することを試みている。
    • 必要に応じて外部のリソースやノウハウを積極的に活用し、フィードバックを得ている。
  3. 未来洞察を政策や事業に反映させる際の工夫
    • 未来洞察の機能を外部機関に委ねず行政のなかに内製化する重要性が強く認識されており、スキルセットやリテラシーの獲得に向けた活動が存在する。
    • 国レベルで組織横断的に集うような未来洞察コミュニティが公式・非公式に形成されており、参加者の能力向上とともに、お互いの活動に関する情報交換によって各活動の質を高めている。
    • アカデミーや大学・研究機関と連携して知見や人の交流が促進されたり、国際的なネットワークのなかで未来洞察の方法論の洗練が図られている。
    • 今後のSTIの動向を見据えながら、未来洞察に従事する専門家の育成と採用を戦略的に行っている。

諸外国でも未来洞察の進め方について常に試行錯誤されている。今回得られた論点や示唆に基づく深堀りを進めるとともに、日本の事情に即した検討を引き続き行っていく予定である。本報告書が、関係各所との対話の一助となるのと同時に、国内の未来洞察に関わるコミュニティの邂逅を促すことになれば幸いである。

※本文記載のURLは2024年4月時点のものです(特記ある場合を除く)。