2024年7月5日

第247回「未来洞察② 政策形成 2つの視点」

科学技術・イノベーション(STI)政策において科学技術の発展や社会変革の兆しをいち早く捉えることが一層重要になってきており、ステークホルダー間の連携や共同作業が今後のカギになることを前回は述べた。今回は、未来洞察を行う際の視点について紹介する。未来洞察は科学技術駆動と社会課題起点の二つの視点に大きく区別することができる。

科学技術駆動
科学技術駆動の未来洞察とは、科学技術の発展がもたらす潜在的なインパクトやリスクを早期に把握し、社会・経済の中長期的な発展を構想する試みである。とりわけ、最近では人工知能(AI)やコンピューティングの革新がさまざまな研究分野にブレークスルーを起こしており、その結果、新しい研究のフロンティアや、将来的に社会に実装された際に起こりうる影響が活発に議論されている。

例えば、バイオテクノロジーとデジタルテクノロジーの融合領域は進展が著しく、ゲノム情報を用いた精密医療の進展や、取得可能なバイオデータの大幅な増加、現在使用されている原材料や燃料の製造方法や入手方法の変革など多方面に影響を及ぼすことが考えられる。また、これに伴って発生する安全保障やサプライチェーンなどが直面する課題について各国でさまざまな洞察が進められている。

社会課題起点
一方、社会課題起点の未来洞察とは、都市開発や食糧問題など特定のテーマに注目して中長期的な展開を構想し、必要な政策課題を検討する試みである。高齢化社会の進行に伴う人口動態の変化や地球温暖化に起因する生態系の変化、米中の覇権争いやグローバルサウス(南半球を中心とした新興・途上国)の台頭に象徴される地政学的情勢の変化は、STIに関わるさまざまな課題とも深く関係している。

例えば、スマートシティー(次世代環境都市)の実現を下支えするインフラの未来の姿(スマートインフラ)に関する検討では、自然災害や少子高齢化、地域再生などに関係するさまざまな課題が同定されている。

今後、道路や橋梁といったインフラは、自動運転の導入や、防災・減災に役立つなど多機能を備えた持続可能で強靱なものへの移行が検討されており、STIを通した課題解決や新しい社会の実現が志向されている。

今日の科学技術と社会の関係深化を踏まえると、科学技術駆動と社会課題起点の双方の視点から変化の兆候を捉えたうえで、推進方法に関するより強固な仮説や政策的な意図も含めた検討を行い、総合的にSTI政策や関連事業を構築することが重要である。

※本記事は 日刊工業新聞2024年7月5日号に掲載されたものです。

<執筆者>
加納 寛之 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。2020年5月より現職。科学技術・イノベーション政策についての調査業務に従事。

<日刊工業新聞 電子版>
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