調査報告書
  • 科学技術イノベーション政策

戦略立案の方法論 ~フォーサイトを俯瞰する~

エグゼクティブサマリー

 科学技術イノベーション政策とは、本来的には不確実な未来に対して予算を投入することである。未来というのは従来、過去に従属していた。すなわち過去を支配した法則の先見により、未来が予測されるというのが、科学における未来の捉え方であった。しかしそのような法則が「存在しない」「過去が少なすぎて法則がみつからない」等の理由により、この捉え方が変わらざるを得なくなってきた。このことは未来について知ることが緊急の課題になったこととも大いに関係がある。それは「未来を捉える科学」の領域を想定し、そこに入っていくことに他ならない。
 こうした背景の中、国民の期待や社会的要請を的確に把握して、政策立案や推進に適切に活かすための戦略立案手法の一つの手段として、フォーサイトがある。フォーサイトは、現時点で活用可能な知識を結集して将来への洞察を深める手段である。研究開発戦略を立案するためにフォーサイトを行う目的は、社会が直面する課題を発見し、研究課題を結びつけることである。
 研究課題を社会の価値に結びつけるために、社会が何を求めているかを明確にする必要がある。この社会が求めているものを「社会的期待」と呼び、社会的期待を発見するためのフォーサイトでは、氷山分析(Iceberg Analysis)の枠組みが多く活用される。まず顕在する社会的期待を観察し、その傾向や構造を分析する。社会的期待の社会的、技術的、環境的、経済的、政治的構造を解釈し、変化を及ぼす鍵となる「ドライビングフォース」を特定する。氷山分析で導出された「ドライビングフォース」を優先付けし、分析することによって抽出したロジックを手がかりに、社会的期待を再構築し、未来の可能性を洞察するのである。この氷山分析で導出されたドライビングフォースと抽出されたロジックを記述したものが「シナリオ」であり、「シナリオ」をつくって洞察を深めるプロセスが「シナリオプラニング」である。
 第4期科学技術基本計画に向けて、研究開発戦略立案を担うシンクタンクであるCRDSが国民の期待や社会的要請を的確に把握し、科学技術イノベーションの未来の可能性に対して戦略を立てるためには、これまでの分野別領域俯瞰図から、研究の構造化俯瞰図、さらに機能的研究ネットワークがつくられる一連の流れと、社会的期待の俯瞰図から抽出される社会的期待の邂逅により、戦略スコープが切り出され戦略プロポーザルの提言に取り組む統合的な取組が求められている。特に社会的期待を抽出し、社会的期待の俯瞰図を作成するためには、シナリオプラニングが有効な手段の一つである。また、シナリオプラニングには、計量書誌学分析、特許分析等の基盤的なデータの蓄積、手法の開発及び試行錯誤、有識者によるブレインストーミング、ワークショップが必要であり、関係者の一層の連携協力と国民の支援が求められる。