2023年9月15日

第211回「新興技術 ルール形成 活発化」

国際競争 加速
新興技術に関わるルール形成の動きが国際的に活発化している。現在、話題になっている生成人工知能(AI)についても、世界各国で推進策の策定とルール形成の取り組みが進んでいる。2023年5月に開催された先進7カ国(G7)広島サミットでは、23年末までに、国際ルールの策定を目指した「広島AIプロセス」を立ち上げることが合意された。

昨今、技術的な革新性だけではなく、技術の実用化に関わるルール形成を自国にとって有利に進めることが、科学技術・イノベーションの競争力に直結している。諸外国では、新興技術に関わるルール形成が戦略的に行われている。とりわけ、欧州は域内に有利なレギュレーションを事実上の国際ルールとすることで、研究開発と市場開拓において優位な地位を確保しようと努めている。

一方、日本は、AI分野では善戦しているものの、自動車産業やマテリアル産業など、今まで日本が技術力を強みとしてきた産業分野においては、ビジネスの根幹に関わるルール形成で後れをとっていることが指摘されている。

研究開発と連動
新興技術に関わるルール形成は、研究開発が進み技術の実用化が現実味を帯びる前から始まっている。これは、新興技術の開発や活用に伴う潜在的な便益やリスクを、予見的に把握し準備・対処する取り組みとして進められている。

経済協力開発機構(OECD)が主催する国際会議では、研究開発と並行して各国が準拠するルールの前提となるようなコンセプトの検討やアジェンダの共有が図られている。

ここで肝心なことは、研究開発の一環として目指したい社会のビジョンや実現したい価値、科学技術の倫理的・法的・社会的課題の検討が実施され、こうした動きにつながっているということである(図)。

実際、海外が主導するルール形成の背後には、技術開発に関わる理工学系の研究者や、倫理や法学をはじめとする人文・社会科学系の研究者の専門知と実践の蓄積がある。研究活動の一部として、産官とも連携しながら、アカデミアが新たな価値や規範の提案を行い、ルール形成の議論を先導・支援しているケースも見受けられる。

AIガバナンスで、日本が一定の存在感を示している背景にも、アカデミアにおける地道な検討の積み重ねがある。今後も新興技術の登場に合わせて、国際的なルールメイキングが急速に進むことが予期される。こうした事態に対応するために、産学官での体制作りが求められている。

※本記事は 日刊工業新聞2023年9月15日号に掲載されたものです。

<執筆者>
加納 寛之 CRDSフェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)

大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。20年5月より現職。科学技術イノベーション政策についての調査業務に従事。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(211)新興技術、ルール形成が活発化(外部リンク)