- 科学技術イノベーション政策
- 横断・融合
ELSIからRRIへの展開から考える科学技術・イノベーションの変革 政策・ファンディング・研究開発の横断的取り組みの強化に向けて(—The Beyond Disciplines Collection—)
エグゼクティブサマリー
新興技術(エマージング・テクノロジー)の急速な進展が著しい昨今、科学技術と人々の暮らし、社会経済活動との関係深化や相互作用の意義や重要性がこれまで以上に問われている。近年では、SDGsに代表される地球規模で人類が直面する喫緊の課題(グランドチャレンジ)において、科学技術・イノベーションが重要な役割を果たすことが期待されており、研究開発の仕組みや実践の更なる変革が求められている。こうした背景の中で、我が国でもELSI(Ethical, Legal and Social Issues: 倫理的・法的・社会的課題)やRRI(Responsible Research and Innovation: 責任ある研究・イノベーション)の考え方とその重要性が政策立案者や研究コミュニティの中で改めて認識されるようになってきた。
ELSIとRRIは具体的な取り組みにおいても重なる部分は多いが、動機や視座、目的意識において全体的なフレームは大きく異なる。ELSIは科学技術を基点にして、それが社会との間で生じる倫理的・法的・社会的側面の把握・検討・対処を試みることが中心であるのに対し、RRIは目指すべき社会像や価値(観)から逆算して、我々の社会が直面している壮大な課題に挑戦するための手段として科学技術・イノベーションを据え、それを効果的に推進するために倫理的・法的・社会的側面に関わる検討や実践を要請することや、科学技術の研究開発のあり方そのものをそうした社会像や価値(観)に合致した、より好ましいものへと変革、転換しつつ発展させていく考え方を指す。
我が国でも、ELSIの標語の下で推進されてきた取り組みに加え、RRIの視点から科学技術・イノベーションに関わるシステムを変革することの必要性に対する認識が顕著にみられるようになっている。第6期科学技術・イノベーション基本計画では、「人文・社会科学の厚みのある知の蓄積を図るとともに、自然科学の知の融合による、人間や社会の総合的理解と課題解決に資する総合知の創出・活用によって、持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(Well-being)を実現できる社会」に到達することが目指されており、そのための科学技術・イノベーションの変革が求められている。研究コミュニティのなかにも、国際的なアジェンダに応えるために、研究開発とその成果を社会実装するというシーズ・プッシュ型アプローチだけではなく、社会課題側から研究開発を牽引するデマンド・プル型アプローチを採用することへの意識が少しずつ高まっている。産業界でも、新興技術の社会実装を進める上で、規制や標準の策定等で国際的な主導権を獲得し、早くから社会受容の土壌を作らなければならないという問題意識が増えてきている。
こうした認識に基づく科学技術・イノベーションに関わるシステムの変革にあたっての課題は多岐にわたるが、特に科学技術・イノベーションに関する政策、ファンディング、研究開発活動の三つの視点が変革促進の鍵となる。また、これらは相互に関連し合っており、横断的な取り組みが欠かせない。
本報告書はこうした見地から、米国、欧州、日本のELSI/RRIの展開を俯瞰した上で、科学技術・イノベーションを政策、ファンディング、研究開発活動の三つの視点から整理して検討し、我が国において、科学技術・イノベーションの変革を推進するための課題を抽出する。
※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。