俯瞰ワークショップ報告書
  • 横断・融合

新たな価値を共創するための人文・社会科学と自然科学の知の融合「総合知」を考える

エグゼクティブサマリー

SDGsの下、国連でまとめられた「持続可能な開発に関するグローバル・レポート2019」および第6期科学技術・イノベーション基本計画の「総合知」は、学問分野の隔たりを取り除き、さらに社会とアカデミアの壁を乗り越え、異なる立場や価値観を持つステークホルダーが協働で社会の課題解決に取り組む必要があるという姿を描いている点で共通する。社会課題解決のための自然科学の研究だけでなく、人文・社会科学者も参画し、大学組織として、多様なステークホルダーと協働で地域の課題を抽出し、課題の優先順位づけを行い、研究対象とする課題を特定し、人文・社会科学固有の研究テーマも協働して進めていくようなことが求められていくであろう。

社会課題解決やイノベーション創出に向けた、アカデミアにおける人文・社会科学と自然科学の知の融合、産官学金民などステークホルダーの協働が「どのようになされてきたか、ボトルネックは何か、今後必要な方策は何か」について全4 回のワークショップで議論した。

大学等で人文・社会科学と自然科学の知を連携、融合させて研究や活動に取り組む研究者の現状、課題を把握するため、社会やアカデミアにおける位置付けが異なる「気候変動」「レジリエンスと防災」「デジタル社会」の3つのテーマを設定し、これまで連携プロジェクトに関わった有識者計12名から話題提供いただき、議論した。

さらに、将来の持続可能な社会の形成、新たな価値共創に向け、多様なステークホルダーが組織間で協働する「総合知のエコシステム」の在り方について検討するため、産業界、大学から社会課題解決型プロジェクトに関わってきた有識者5 名からの話題提供と議論の場を設けた。

テーマ別の3回のワークショップでは、異分野融合を実践する研究組織の活動や複数組織によるプロジェクトの実践例がアカデミアの有識者から紹介された。そこでは成功事例の共有とともに、複数分野の知を融合する際に多くの課題が残されていることが、経験に基づいて具体的に指摘された。「総合知のエコシステム」のワークショップでは、企業がアカデミアの知に期待する側面や、地域社会との対話の重要性など、多様なステークホルダーが関わる上での課題が指摘された。

ワークショップおよびインタビューなどの予備調査で得た現状、課題についての知見を、上記で掲げた直接的な論点である1.多様なステークホルダーとの協働、2.大学等における人文・社会科学と自然科学の間の連携、また、1と2に共通する論点であり、1および2を活性化する土壌、環境として、3.大学等での人材育成と評価システム、4.公的資金と研究基盤、にまとめた。

社会課題の解決に向けた取り組みそれ自体を付加価値創造の源泉として位置づけようという時代において、従来の「科学技術駆動型の研究・イノベーション」に加えて、これまで以上に「社会課題解決型の研究・イノベーション」を考える取り組みが必要になってきている。

今後CRDSにおいては、その両者が相互に影響し合い、その共創を可能とするエコシステムの在り方や構築の方法について検討していきたい。

※本文記載のURLは2022年5月時点のものです(特記ある場合を除く)。