2024年7月12日

第248回「社会変革を促進する総合知」

人工知能(AI)など新興技術の急速な発展に伴い、科学技術と人・社会の関係がより複雑化し、科学技術・イノベーションのあり方も変化している。専門分野を超えた「学際融合」と、産業界・市民などの参画による「共創」も不可欠になってきた。

日本ではこの多様な知の融合を「総合知」と名付け、あらゆる分野の知を活用し、複雑な社会課題に的確に対応していくことを目的に、第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021-25年)で重要な政策課題として位置付けた。

海外も同様に、欧州では社会のステークホルダー間のパートナーシップに重点を置いた「トランスディシプリナリー研究」を、米国では研究分野間の深い学際融合に軸足を置いた「コンバージェンス研究」を推進している。

欧米も研究加速
欧州では例えば、スウェーデンが気候中立都市の実現をビジョンに掲げたバイアブル・シティプログラムを実施している。分野が交差するところに領域を設定し、大学や自治体など複数セクターの参画を必須としたプロジェクトに取り組む。

政治の役割や資金調達をも含む社会システム変革の研究にも注力し、都市政策を支援する。プログラムの成果は欧州連合(EU)の国際的な枠組みを通じて共有され、更なるEU内のパートナーシップ強化が図られる仕掛けだ。

米国では国立科学財団(NSF)を中心にコンバージェンス研究を進めている。学際体制の構築からプロジェクトの目標達成までの広範な過程に対し、起業家や国際展開のプロフェッショナルが実践的支援を行っていることが最大の特徴だ。

また、スタートアップ創出によって研究成果の展開を加速しゲームチェンジを目指す、米国の強みを生かした制度設計となっている。

デザインの違い
総合知に類する各国事例の共通点は、研究・実践・教育の一体的な取り組みと、政策やファイナンスなどにおける既存の枠組みを変革することへの挑戦だ。目指すべき価値によって「いつ・どのように」総合知のアプローチを仕掛けるか、その設計が重要である。解決すべき社会課題の状況や駆動力となる科学技術の特性を見極めた、適切なデザインが求められる。

今や総合知のアプローチは、各国の背景や戦略を反映しながら、多く見られるようになった。日本社会が直面する課題と目指す方向性を見定め、息長く総合知に取り組むことが必要である。

※本記事は 日刊工業新聞2024年7月12日号に掲載されたものです。

<執筆者>
濱田 志穂 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)

名古屋大学大学院環境学研究科修了。研究開発戦略センターでは、総合知、新興技術ガバナンス、責任ある研究・イノベーションなどに関する調査・分析業務を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(248)社会変革を促進する総合知(外部リンク)