調査報告書
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イノベーションエコシステム調査 創薬のオープンイノベーションの潮流

エグゼクティブサマリー

有望な医薬品候補(特に低分子の新しい薬のターゲット)が枯渇しつつあると言われている。また、モダリティの多様化:化学(化合物)⇒バイオテク(タンパク質・ペプチド、核酸・遺伝子、細胞)もあり、一医薬品当たりの研究開発費の高騰している。

そのような状況の中で、米国は過去30年でスタートアップとファーマの分業モデルを確立してきた。こうした米国メガファーマの研究開発と出資のバランスはどうなっているだろうか。欧州メガファーマはどうか。という問題意識の下、日本において、持続的に新薬が開発・獲得できる製薬企業、あるいはスタートアップに向けた戦略のためのエビデンスを把握する調査を実施した。

具体的には、2011年以降承認薬 (US, EU, JP) の分析、海外メガファーマ及び国内大手製薬パイプラインの分析、特許動向(国別、メガファーマ別)、論文動向(国別、メガファーマ別)の調査を行った。

得られたエビデンスのうち主なものは下記の通りである。

医薬品産業全体分析

  • 創薬はオープンイノベーションで進むが、オープンイノベーションには相応の費用を要する
  • 資本力(時価総額≒会社のサイズ)が研究開発力、買収とパイプラインに直結
  • 売上上位100品目の9割がメガファーマ15社由来
  • 売上上位品は自社開発が多い
  • スタートアップが開発から承認までもっていった割合は47%(ドラッグラグの一因)
  • ファーマでの研究開発費の増加に対し、FDAの承認数は比較的安定したままであり、特許数は減少傾向

欧米メガファーマ分析

  • メガファーマによる買収、出資先は米国スタートアップが大半(=革新的なシーズを有するスタートアップの多くは米国発)
  • メガファーマのパイプラインは、自社開発は約50%、スタートアップと大学由来で約40%
  • 米国メガファーマは米国スタートアップとの分業中心。欧州メガファーマは国際共同研究が多く、米国を中心とした海外からの導入も多い
    • 欧州メガファーマは米国スタートアップからの導入が中心。欧州スタートアップは国外企業(特に市場の大きい米国)への導出も多い
    • 欧州企業では国際的な共同研究(論文)が多く、日米は国内での閉じた研究になる傾向
    • 欧州メガファーマはスタートアップが乱立する米国から幅広く豊富なシーズを導入するために積極的に国際共同研究を行っている可能性

国内ファーマ分析

  • 武田薬品、大塚HD、アステラス製薬はパイプラインに占めるスタートアップの割合が大きく、米国や欧州からの導入がほとんど。一方、第一三共や中外製薬は自社品がパイプラインの7割を占めており、導入品の割合は少ない。

以上の結果から、今後日本のスタートアップを促進させていく際も、国内で完結する戦略だけでは難しいと言える。海外から資金調達を行ったり、欧州のスタートアップのように、市場の大きい海外をターゲットにしないと世界レベルの成功は難しいのではないか。また医薬品開発は1000億円オーダーのビジネスであり、スタートアップは低い評価額のIPOだけでは十分ではなく、M&Aを考えないとエコシステムは形成されないことも示唆された。

スタートアップは(国内外問わず)製薬企業とのアライアンスが必要であるし、製薬企業は(国内外問わず)大学やスタートアップの目利きが必要である。

※本文記載のURLは2023年12月時点のものです(特記ある場合を除く)。