調査報告書
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近年のイノベーション事例から見るバイオベンチャーとイノベーションエコシステム

エグゼクティブサマリー

JST研究開発戦略センター(CRDS)では、「(研究開発の俯瞰報告書)ライフサイエンス・臨床医学分野(2021年)」において、36の研究開発領域について動向、トピックスを概括し、国際ベンチマークを実施した。その結果、研究開発の国際ベンチマークにおいて、米国は基礎研究と応用研究がほぼ同時的に進行するのに対し、日本は基礎研究が強くてもなかなか応用に向かっていかないという環境(構造的課題)が存在するという問題を提示した。また同報告書では、CRDSが注目する15の動向を抽出した。日本はこれらの新しい潮流を生み出す研究力に乏しいことと同時に、これらのイノベーション(社会実装)への貢献も低いことが見て取れた。これらから、バイオ分野の新しい科学技術の潮流を社会実装(イノベーション)する担い手としてのスタートアップ・ベンチャー企業に注目して動向をまとめたものが本報告書である。

科学技術の進展が早く、多様化しており、特に2010年以降に顕著な医薬モダリティの多様化とデジタルトランスフォーメーション(DX)・AIによって、研究開発のあり方やイノベーションのプロセスが大きく変容している。遺伝子治療、CAR-T 細胞療法、ゲノム編集(CRISPR)からAIや機械学習に至る技術開発のように、10 年前には想像の域を出なかった方法が、世界の健康・医療ニーズに取り組むための新しい革新の波を推進している。米国を中心に医薬ベンチャーに対して空前のM&Aなどの巨額投資が起こっている。もしこれが新しい科学技術にアクセスし、社会実装するためにベストな形だとすると日本の企業はどのように生き残っていくのだろうか。今般のCOVID-19におけるmRNAワクチンも典型的なイノベーション事例である。

ここでは、ここから「医薬モダリティの多様化」の事例として、「mRNA医薬(mRNAワクチン)」、「ゲノム編集・遺伝子治療」、「細胞治療薬(CAR-T、CAR-NK)」、「デジタルセラピューティクス(DTx)」の4つを、「健康・医療のDX」の事例として、「リキッドバイオプシー」、「AI 医療機器」、「ウェアラブル・埋込デバイス」、「AI・ロボット等による自動化」、「次世代シーケンサー(ロングリードNGS、一細胞オミクス)」の5つのイノベーションの動向を取り上げた。

こうしたイノベーション事例から日本の課題を下記のように構造化し、最後に日本が取り組むべき方策(示唆)をまとめた。
 ①大学等を求心力としたエコシステムの不在
  1)新しい科学技術の創出の不足
  2)基礎研究者の起業意識の不足
  3)起業や商業化に関する多様な人材の不足
 ②スタートアップ(アーリーステージ)への資金供給の不足
 ③スタートアップ・ベンチャーの出口の偏り

※本文記載のURLは2021年7月時点のものです(特記ある場合を除く)。