俯瞰ワークショップ報告書
  • 環境・エネルギー

気象・気候研究開発の基盤と最前線に関するエキスパートセミナー

エグゼクティブサマリー

本報告書は環境・エネルギー分野エキスパートセミナー「気象・気候研究開発の基盤と最前線に関するエキスパートセミナー」をまとめたものである。

世界各国は極端気象災害の頻度増加などを受け、気候変動への危機感を高めている。我が国でも令和二年11月に、衆参両院で気候非常事態宣言が決議され、適応策の検討が活発化している。

極端気象災害への対応には対策の基盤を据える基礎研究の蓄積と、より良い活用が必要となる。多様な専門家により自然科学の基礎研究が進められ、得られた知見の結集や先端技術の導入が進んでいる。さらに多くの人々が極端気象災害の本質的な理解を深めて、防災・減災を進めていくためには、協働・対話が重要となる。

このような認識のもと、気象・気候に関連して、「気象・気候システム研究の発展と展望」「防災・減災に資する気象研究開発の最前線」「衛星で知る地球環境変化」「気象・気候に関連する超学際研究や異分野協働研究」の4つの区分でエキスパートを迎え、合計16のセミナーを実施した。

気象・気候はまさにマルチスケールの時空間にまたがり、多様な物理化学生物地学的過程が絡み合うマルチフィジックス複雑システムである。観測とシミュレーションの両輪の推進によって、日々の気象環境の変動をもたらす雲生成やエアロゾルの影響、大気海洋相互作用のような地球サブシステム間の相互フィードバックの実態、地球規模の大気大循環や変化強制因子などの科学的解明が進められてきている。それにより、気象防災のレジリエンスや気候変動の理解が向上している。

本セミナーシリーズを通して、衛星や地上、海洋ビッグデータの高度活用による気候変動の実態の解明、データ同化やデータ解析技術を駆使した異常気象早期探知、AIを用いた未知の河川洪水法則の発見、気象ビッグデータを活用した新規ビジネス創出、数値モデルを用いた古気候・古海洋の復元などのデジタル技術を活用した研究開発が多くの成果を創出していることが確認された。発展著しいデジタル技術の効果的な活用が引き続き本分野および社会の注目を集めることは疑いない。

気象、気候は現実の自然を相手とするため、観測がきわめて重要となる。本分野のエキスパートの多くが観測の重要性を指摘していた。一方、非専門家のステークホルダーは観測の重要性を見逃しがちである。どれだけデータ処理や解析技術が進化しても、シミュレーションと両輪の関係にある観測がなければ、研究開発は進展せず、社会のレジリエンスも向上しない。地理的特性から線状降水帯や台風などの自然災害リスクが高い我が国において、レジリエンスをさらに高めていくにはシミュレーションとの両輪で観測もしっかり推進していかなければならない。また、気候変動がもたらす影響に適応していくためには、分野を超えた総合的な取組みが必要である。ただ一つの解決策で気候変動に備えることは不可能であり、個人、社会あらゆる階層で複数の対策を講じ、包摂的にレジリエンスを向上させていく必要がある。その土台となる研究開発基盤の構築と、社会への浸透が今後も重要である。

JST–CRDSでは引き続き環境・エネルギー分野の中心的な分野の一つとして気象・気候に関する俯瞰を行うとともに、関わりが深い関連分野の研究開発動向を調査分析していく予定である。

※本文記載のURLは2022年2月時点のものです(特記ある場合を除く)。