戦略プロポーザル
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極端気象災害と気候変動リスクへの対応強化に向けた近未来予測

エグゼクティブサマリー

本プロポーザルでは、自然災害と気候変動リスクへの対応を強化するために、数週間規模から十年規模までの時間スケールを対象とした近未来の予測の高度化、およびその社会利用の促進を目指した研究開発戦略を提案した。

自然災害および気候変動のリスクに適切に対処し、適応的かつ強靭な社会を構築することは、日本および世界にとって喫緊の課題である。その対応を強化するためには将来起こり得る気象・気候の変化の多様な時間的・空間的スケールでの予測、および人間社会や自然環境への影響の多面的評価が必要である。その上で予測情報をステークホルダーに利用しやすい形で届け、対策立案や意思決定、行動変容に効果的に繋げていく必要がある。従来、これらは天気予報や50~100年先を見据えた気候変動予測で主に行われてきた。しかし昨今は気候変動リスクを考慮した自然災害対応が求められており、気候変動の緩和・適応や防災・減災を目的とした計画や対策を講じるためには数週間、数か月、数年、あるいは十年以上先を見据えた予測が必要との認識が自治体等で強まっている。加えて産業界では「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言への対応として気候関連リスクが財務に与える影響の把握・開示が事業者に今後求められることからも同様の時間スケールへのニーズが高まっている。

こうした新たな予測ニーズを背景に、関連する「予測」および「影響評価」の研究開発が近年活発化している。その動きを加速させ、研究開発成果を社会利用に繋げていくためには、国として研究開発を一体的かつ効果的に推進する体制を構築する必要がある。このような認識から本プロポーザルでは、数週間規模から十年規模までの時間スケールを対象とした「予測」ならびに「影響評価」の高度化、およびその社会利用の促進を目指した研究開発戦略を検討した。研究開発課題は「予測」、「影響評価」、「データ・解析基盤」の3つの柱から構成される。またその推進方策として7つの項目を提案した。これらの項目に共通するのは既存の分野・セクターを超えた体制の構築や取組みの重要性である。

幅広い時間スケールの「予測」を可能にするためには分野横断的でミッション志向型の研究体制の構築が必要である。「予測」分野の研究成果を効果的に社会利用に繋げていくためには「影響評価」や社会利用分野との協同も不可欠である。個々のプログラムやプロジェクトが有機的に繋がっていくための傘、あるいはハブ(結節点)を作る仕掛けが求められる。

気候予測研究は科学的探究と並行して社会利用への接続を考えることが常に求められる。とりわけ気候変動の緩和・適応や防災・減災のための具体方策の創出は喫緊の課題となっている。そこではマルチステークホルダーとの協同・連携を通じて研究の計画段階から成果創出までを共に進める共創体制を構築することも必要になるだろう。また短中期的に成果を狙っていくような研究開発と並行して、中長期的に必要な研究開発を計画的に進めていくことも必要である。これらがバランス良く進められ、相互に影響しあう関係性や体制を国内に作り上げていくことが、本プロポーザルが対象とする数週間から十年スケールの予測の研究開発を効果的に推進する上での望ましい方向性である。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。