調査報告書
  • 横断・融合

イノベーションエコシステム形成に向けた産学橋渡しの現状と課題

エグゼクティブサマリー

わが国の科学技術イノベーション政策の目指す主要な方向性の一つが、民間企業、政府、公的機関、大学、金融機関、投資家、起業家、市民社会など多様なアクター間の相互作用のもとに社会・経済的価値を創出する「イノベーションエコシステム」を形成し、機能させることにある。アカデミアセクターと産業セクターの相互作用は、このエコシステムの重要な部分をなす。大学や公的研究機関で生まれた研究成果を産業界へ受け渡す、あるいは大学等と産業界が協働して社会・経済的価値を生み出す諸活動である。

過去四半世紀、日本では主要先進諸国に数歩遅れながらも、大学発シーズの技術移転、共同研究やコンソーシアム形成、大学発ベンチャー創出など、様々な形の産学連携の体制がつくられてきた。各大学・研究機関や各企業での努力に加え、産学連携の進展状況や課題について文部科学省や経済産業省を中心に調査・分析が継続的に行われ、改善のための施策が打たれてきた。その結果、産学共同研究、知的財産のライセンス、大学発スタートアップの活動など、種々の活動のボリュームを示す指標は一貫して増大傾向にある。その一方で、諸外国での状況を引き合いに、まだまだ日本の産学連携のポテンシャルが発揮しきれていないとの指摘もある。

日本の産学連携の現状をどう理解すればよいのか。そして今後、どのような姿を目指すべきなのか。産と学の相互作用の体制や方法は多様化・複雑化し、また特に第6期科学技術・イノベーション基本計画以降、政策自体が大きく変化している今日、産・学・官の各ステークホルダーが認識を共有することの難度は上がっている。

そこで本レポートでは、産学連携の現状に関するデータをできるかぎり平明な説明とともに構造化し、提示することを目指した。特に産学のインターフェースを「橋渡し(bridging)」の問題として捉え、過去の報告書のレビュー、専門家へのインタビュー、独自の定量調査をもとに情報を整理した。産業界とアカデミアの垣根を越える主な手段(チャネル)として、以下の三つを取り上げる。

  • 特許化とそのライセンスによる技術移転
  • アカデミア発スタートアップ(ベンチャー)創出
  • 産学共同研究(国プロ、拠点、コンソーシアム等による産学連携を含む)

第1章では、産学橋渡し(産学連携)の目的を「イノベーションエコシステムの活性化」に位置づける。第2章では、産学橋渡しの主要なチャネルとして、①特許による技術移転、②アカデミア発スタートアップ、③産学共同研究を取り上げる。それぞれの橋渡し活動のための制度・体制が整えられ、各種の指標で測られるそのボリュームは増大していること、一方で資金・人材のリソースやその分布に関して各種のボトルネックが指摘されていることを見る。第3章では、各国の産学橋渡しのマクロ動向の把握を目的に、主として各国の特許出願動向を調べた。また、スタートアップ環境、産学間の研究資源の分布と相互作用という観点から、各国と比較した日本の特徴づけを試行的に行った。第4章では、現状や課題が政策的に認識され一定の手が打たれていることを確認したうえで、今後の深堀りが必要だと考えられる3点を提案する。

(1)産学橋渡しのリソースをどう最大限活用するか
(2)指標に表われない産学橋渡しの果実をどう認識して伸ばすか
(3)産学橋渡しをどう研究力の向上につなげるか

こうしたポイントも踏まえ、さらなる事例調査や分析が進み、具体的な施策立案や改善につなげていくことが重要である。本レポートがその認識共有に資することを期待する。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。