Beyond Disciplines
  • 横断・融合

デジタル化とエネルギー 〜ICT セクターの持続可能な成長のために〜(—The Beyond Disciplines Collection—)

エグゼクティブサマリー

デジタル化の進展は、エネルギーシステム、交通などの社会インフラシステム、行政・住民サービスといった社会システムを改善し、高効率化・高付加価値化を実現する。しかし一方でデジタル化の進展は自身のエネルギー消費量増大という側面も持つ。本調査報告書はデジタル化に関連したエネルギー問題について、技術的課題だけでなく、デジタル化が及ぼす社会課題との分野融合・横断のテーマとして多面的視点からまとめたものである。

急速なデジタル化進展に伴うデータ量・計算量の指数的増加から、電力消費の爆発的増加といった持続可能性への懸念がこれまで言われ続けてきた。しかしICTセクターを代表するデータセンターと通信ネットワークの電力消費は2010年から現在まで大きな増加は見られていない。本報告書ではICT関連のエネルギー消費増大が言われてきた背景やその実情と対応について、1990年頃から現在までの振り返りを含めて調査を行った。本調査ではデジタル化推進の要であるICTセクターの持続可能な成長を担保するため、エネルギー視点からその課題と対応策の方向性、必要な研究開発を整理した。結論および結論を導く主な要点は以下の通りである。

【結論】 

デジタル化の進展はICTセクターの持続可能な成長とともにある。技術面からはエネルギー消費量削減技術を含めたコンピューティング(高性能計算)・通信技術について、継続的な研究開発が求められる。また今後のICTセクターのエネルギー消費量がどうなるかはデジタル化がもたらす社会変革にも大きく依存している。適切な対応策を考えるためには将来の社会システムなどの構造変化を考慮した評価・分析を行うことが必要になる。このためには社会シナリオ研究や経済学的手法も含めた多面的な影響評価に関わる研究を発展させることが重要であり、特にエネルギー削減効果を打ち消す方向に働くリバウンド効果は、エネルギー問題におけるリスク的課題として取り組む必要がある。

  • 1990年のインターネット普及からICTセクターの電力消費量が過大評価されてきた。それらの原因は関連データの不足によるものやICTの電力消費に関する論文・報告書の特異的な部分だけをセンセーショナルな形で取り上げたことによる。
  • デジタル化普及のためには大量のデータを高速かつ低コストで処理し、コストに見合う価値を生み出す必要がある。そのためにはコンピューティング(高性能計算)・通信技術の高性能化・エネルギー消費削減、ひいてはICTセクターのエネルギー消費削減のための継続的な研究開発が必須である。
  • 将来のICT関連のエネルギー問題を考える上には、ICT利用がおよぼす社会構造変化まで考えた「正味」での効果を評価する必要がある。
  • 今後ICTセクターにおける電力消費量はデジタル化の進展とともに新たな価値創造をしながら、経済合理性を持って徐々に増加するものと考えられる。
  • デジタル化がもたらす負の側面として「デジタル格差」に関連した、繁栄、インクルーシブ、優れたガバナンスなどの社会的課題解決への対応を同時に進めていくこと重要である。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。