Beyond Disciplines(分野横断報告書)
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リサーチトランスフォーメーション(RX) ポスト/withコロナ時代、これからの研究開発の姿へ向けて(—The Beyond Disciplines Collection—)

エグゼクティブサマリー

リサーチトランスフォーメーション(RX) ポスト/withコロナ時代、これからの研究開発の姿へ向けて(—The Beyond Disciplines Collection—)

リサーチトランスフォーメーション(RX)とは、ポスト/withコロナ時代におけるこれからの研究開発の姿へ向けた変革を指す語である。今、社会・産業だけでなく研究開発も、新たな時代の新たな姿へと変わらなければならない。それは COVID-19を経たがゆえの進化・高度化であり、これまでの延長線だけでは開けない地平に挑むために必要な変革である。研究開発活動の一連のプロセスにおいて、そのオペレーティングシステムをトランスフォームする、CRDSはこれを"RX"と表現した。RXを推し進める一つのドライバーとして、研究開発のDXとその積極導入・展開は重要な手段となりうる。しかし、DX自体は目的ではない。DXだけではない、研究開発システム全体を新しい姿へ導く変革がRXである。

世界各地の研究開発活動は、他の社会・経済活動と同様に多大な影響を受けている。わが国ではとりわけ大学の学生入構制限が長期化し、高等教育および研究開発活動は全国的に停滞した。産業界や国研等における研究開発はかなりの部分が持ち直しているものの、新型コロナ以前とまったく同じ状況というわけではない。多様な状況にあるわが国の研究開発現場の再起動は、新たなかたちは、如何にあるべきなのか。世界と協調しつつ、日本全体の研究力向上につながるかたちが求められるが、その道筋は共有されていない。分野による違いや、法人・組織の状況、都市部/地域部によっても現場は多様に異なっており、やるべきことはどこでも同じではない。本レポートでは、今後も起こる可能性のある新たな感染拡大に耐えながらも止まることのない"強靭な研究開発活動の環境"を、日本全体にわたって築いていくべくRXを掲げ、先行事例や海外動向も紹介しながら方向性を示す。

RXはいわば"リサーチプロセス・リエンジニアリング"とも捉えることができる。研究開発活動の工程を見渡した時、単にデジタルをどの部分に導入するかといった話ではない。例えば、実験において遠隔操作のシステムを導入することや、自動化・ロボットの導入による研究現場の省人化などはすでに様々に開発・導入され始めている。しかし全体整合的におこなわれるほどには、未成熟で発展しておらず、関連技術開発が多数必要であったり、また、誰もがその恩恵を享受できるように標準化し、現実的に導入可能なコスト構造で実現していくことが必要と、今後の課題は山積である。リアルをオンラインで代替するといった適応策的な対応だけでは、研究力向上はおぼつかない。科学技術の進展とともに社会・経済が複雑化するに伴い、研究開発テーマもより複雑化し難易度が高まり、取り扱うデータの量が増大している。コロナ禍を乗り越えるには、研究者・技術者等関連人材の新しい働き方や、人の移動・時間の使い方が変化していくにあたっての組織構造・雇用環境の見直し、AIなどデータ科学の手法活用による新しい取り組み、そして労働集約的な研究開発環境からの脱却は一層重要になる。また、オフライン・リアルでこその違いや付加価値を創出できることは何か、その在り方の再考が求められる。共同研究や学会活動など、研究上のコミュニケーションの新形態構築、個々人の心理的負担の軽減、世代差よるテクノロジー活用に対する親和性や格差の調和、進路選択の不安を払拭することなども含め、全体がより整合的になるRXの実現が求められる。日本の研究システムにおける旧弊・弊害を構造転換する機会にすべきであるし、 COVID-19の衝撃を、わが国の科学技術力再生の唯一無二の機会と捉えて変革を成し遂げるべきである。

第1章「変わる研究開発環境」では、これからの研究開発環境はどう変化していくのか、現状とのギャップや課題を論じながらRXの大きな方向性を示す。つづく第2章では「強靭な未来のラボの姿へ向けて」、実験研究やフィールド研究におけるDX導入の先行事例や課題を、内外16事例から紹介する。また、研究インフラの在り方を最近のOECDの提言から紹介する。第3章は国内外の動向として、文部科学省の関連施策を紹介し、後半では諸外国の政策動向や海外機関の取り組みを紹介する。最後にまとめとして、「RXの要諦」を示している。RXには必ずしも唯一の正解があるものではないが、産学官の様々な場でRXを体現しようとする人やチームを応援し、学び合い、さらに良い形を共に導いていく。そのようなRX推進の一助となることを期待して、本レポートを取りまとめた。

DXを駆動力にRXを推進RXのシフト:研究開発活動のOSを替える

動画解説