研究開発の俯瞰報告書
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研究開発の俯瞰報告書 ライフサイエンス・臨床医学分野(2021年)

エグゼクティブサマリー

本報告書は、JST-CRDSが、国内外の最先端で活躍する研究者の協力を得て、ライフサイエンス・臨床医学分野における研究開発の全体像を俯瞰的に調査した結果をまとめたものである。

ライフサイエンス・臨床医学分野における研究対象はミクロなスケール(原子、生体分子)からマクロなスケール(集団、社会)まで多階層にわたり、生物学をはじめとする自然科学、医学のみならず工学や人文学・社会科学までを包含する極めて広範囲に及び、基礎研究の成果は健康・医療、食料、農業、環境等の社会基盤の形成に広く役立てられる。当該分野の研究開発は、基礎研究から見出された知見や技術シーズが実用化と小規模な実践を経て社会実装される。ただ、これはリニアモデルではなく、社会における展開の中でその意義や効果が検証され、新たな課題の設定、仮説の抽出を行い、基礎研究に還元されるという循環が重要となる。

コロナ禍をはじめとした社会課題の解決には、社会に存在する多種多様なデータから法則を発見する「データ駆動型」のアプローチが必要になるが、これは必ずしも決定論的世界ではなく、誤謬も生じる確率論的世界である。そのため、「必然の追求」としてのメカニズム探究に加えて、誤謬を低減させる「偶然性の制御」に向けた統計学やAIの活用、さらに新しい数学が求められる。これは社会課題の解決だけでなく、基礎研究においても同様である。また、データ活用においては社会の了解が必要であり、研究成果は自律的な社会に還元されなければならない。社会実装後に行なわれる社会からのフィードバックを基礎研究に還元する循環にはELSI 等、科学と社会の関係強化が求められている。

本報告書の第1章では、科学技術の動向や今後の展望等について、社会との関係に着目した分析を行った。第2章では、社会・経済的インパクト、エマージング性(科学技術の新たな潮流)、基幹性の観点から36の研究開発領域を抽出し、トレンド、トピックス、国際ベンチマークをまとめている。

国際ベンチマークの視点からは、日本は基礎研究では多くの研究開発領域で強みを有するものの、応用研究で強みを有する研究開発領域は限られている。米国等では基礎研究と応用研究の循環系が駆動しているのに対し、日本ではそのような循環がうまく機能しない構造的な課題が存在するように見受けられる。

以上のような研究開発の俯瞰を踏まえた上で、今後10年を見越した社会・経済的インパクト、エマージング性の観点から、当該分野の進むべきマクロな方向性を抽出した。さらに、日本の研究開発の現状と課題を踏まえて日本の挑戦課題を設定した。これらの挑戦課題に共通して、AI・データ駆動型研究が必須になってきている。数理・情報系研究者をはじめとした異分野研究者が集結できる体制を構築するとともに、大学・国研が、企業、行政、起業家や投資家などとともに研究開発を推進していくイノベーション・エコシステムを構築することが急がれている。

目次

研究開発の俯瞰報告書 ライフサイエンス・臨床医学分野(2021年)

参考:研究開発領域別に読む(全分野一覧を別ウインドウで開きます)

解説記事