戦略プロポーザル
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環境調和型プラスチック戦略 ~化学物質としてのプラスチックの安全な管理・活用を推進するための戦略的研究~

エグゼクティブサマリー

本プロポーザルでは、化学物質としてのプラスチックの安全な管理・活用を通じて経済、環境、社会の持続的な発展を推進するための研究開発戦略について提案している。

化学物質は人間社会のあらゆる場面で利用・消費されている。人間社会にもたらした多大な便益に疑問の余地はないが、その反面、意図的・非意図的に環境中に放出された化学物質が生態系や人の健康に及ぼす影響への懸念も存在する。社会の発展に伴って新たな化学物質が次々と創り出される中、これらを如何にして安全に管理・活用するかは、「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴール12「つくる責任、つかう責任」内のターゲットとしても取り込まれている通り、持続可能な発展を目指す社会が真正面から取り組むべき課題である。また、同時に、プラスチックのみならず多様な化学物質の安全な管理・活用に係る各国・地域の法規制は当該市場への展開にあたっての非関税障壁ともなりうるものであることから、それら化学物質の環境リスクを適正に評価できる技術やノウハウを有しておくことは、わが国の産業競争力強化の観点からも重要である。

基本的な方向性は、化学物質をこれまで以上に「賢く使う」ことである。その実現に向けて科学技術に求められる役割は、基本的に、「社会的・経済的インパクトの評価」、「新しい素材の開発」、「廃棄物の適正な管理・処理に係る技術やプロセスの開発」、「環境リスク評価の実施」の4点である。従来は素材開発や廃棄物の適正な管理・処理に重点が置かれがちだが、安全性等に係る評価はそれらと表裏一体の関係であり、一体的に推進する必要がある。

以上を踏まえ、今後取り組むべき研究開発課題とその推進方策については、プラスチックごみ問題への対応(テーマ1)、ならびにプラスチックをはじめとする化学物質の安全な管理に資する科学技術基盤強化(テーマ2)という二つに分けて整理した。プラスチックごみ問題への対応は今日の国際的問題として重要であるものの、それのみでは短期的な対応となる。従ってその基盤強化とともに推進することで、持続可能な社会を実現するための研究開発エコシステムの構築に向けた取組みとすることが長期的には重要であり、かつわが国の産業競争力強化や研究力強化に繋がると期待できる。

なおテーマ1は、関連府省のリーダーシップの下、国としての一体的な取組みを早急に始める必要がある。各課題から得られる知見や技術は相互に共有され最終的には一定の環境リスク評価が実施できる形にまで統合化を目指す。共通ビジョンの下で関連府省が連携して推進する形が望ましく、例えば「ミッション志向型研究開発プログラム」とも呼ぶべき仕組みの下で一元的に推進する形が適当と考えられる。

テーマ2は、中長期的な視点に立って基盤強化を推進するとの立場から各研究開発課題を推進する必要がある。この際、実際に取り扱うべき問題は複雑かつ多面的であり、環境リスク評価を取り巻く伝統的な関連分野の研究コミュニティだけでは十分な対応は困難である。材料科学、計算科学、生命科学など多様な分野の融合・連携の推進が不可欠である。

産学官が一丸となって直面する問題を認識・共有し、その解決に向けて議論を深め、一体的かつ戦略的に研究開発を進め、その成果を迅速に日常生活や企業の経済活動に還元していくことのできる仕組みを作ってゆくことが求められる。

※本文記載のURLは2020年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。