【開催報告】サイエンスアゴラ2018 公開シンポジウム

【開催報告】サイエンスアゴラ2018 公開シンポジウム「地域での発達障害支援を考えよう ~うちの子、少し違うかも...Final」

Photo_サイエンスアゴラ2018

本シンポジウムにご参加くださった皆様、誠にありがとうございました。当日は、医療・福祉関係者(医師・看護師などの専門職や民間事業者)や自治体職員を中心に、約170名の方々のご参加のもと、登壇者・参加者の活発な議論が展開され、大変盛況の中で終了することができました。 開催報告を掲載しておりますので、ぜひともご覧ください。

開催概要

日時:2018年11月11日(日)13:00~16:00
会場:テレコムセンタービル
企画提供:科学技術振興機構 社会技術研究開発センター
後援:日本発達障害学会
参考:開催前アナウンス・参加申し込みページ

登壇者

  • 外岡 資朗
    鹿児島県こども総合療育センター 所長(講演、パネリスト)
  • 神尾 陽子
    お茶の水女子大学 人間発達教育科学研究所 客員教授(講演、パネリスト)
  • 近藤 直司
    大正大学 心理社会学部臨床心理学科 教授(講演、パネリスト)
  • 熊  仁美
    NPO法人ADDS 共同代表(講演、モデレーター)
  • 大石 幸二
    立教大学 現代心理学部心理学科 教授(発表、パネリスト)

企画趣旨

サイエンスアゴラにおいて「発達障害支援」をテーマに行ってきたシンポジウムの第三弾・Finalとして実施しました。発達障害支援について医療・療育・教育等の様々な視点で、研究者や現場支援者から、エビデンスに基づいた地域支援の実践例を紹介しました。講演やパネルディスカッションを通じて、発達障害の有無にかかわらず、誰もが多様で豊かな人生を送ることのできる社会の実現のために、多領域専門職の専門的支援と地域住民の生活支援の両輪が、各ライフステージに適した形で『地域』の中で提供されるための具体的方策を分野・領域を超えて、皆さんとともに考えました。

内容

講演・話題提供

外岡資朗氏 『鹿児島県の地域支援体制づくり~紹介票による診断前療育の整備~』

グラフィック1_外岡資朗氏

神尾陽子氏 『発達障害の人々の心の健康を育てるために:学校での心の健康の予防と支援』

グラフィック2_神尾陽子氏

近藤直司氏 『発達障害を背景とするひきこもりケースの理解と予防的早期支援について』

グラフィック3_近藤直司氏

熊仁美氏 『エビデンスに基づく早期療育モデルの地域実装-エンパワメントモデルとICTの活用-』

グラフィック4_熊仁美氏

大石幸二氏 話題提供『学校教育における発達支援根拠に基づく実践の可能性』

グラフィック5_大石幸二氏

パネルディスカッション

テーマ:発達障害支援における学校教育のかかわり方とは?(モデレーター:熊仁美氏)

  • サイエンスアゴラ2018写真
  • グラフィック6_モデレーター:熊仁美氏

<概要>

[1]エビデンスを学校現場にどう定着させるか(学校実践)

  • 法律が改正され保健調査が規定された。定期健診で校医が1日だけ来て行うのではなく、日頃から子ども達の行動を把握する事が提案されている。教育と医療を一緒にしたバランスの良い健康教育を行い、先生が心の問題を「よくある問題」として自信をもって付き合うようになれば、課題を持つ子の専門機関・医療機関への紹介や、学校で対応すべき子どもが分かり、学校と医療の両輪で動いていける。メンタルヘルス予防プログラムを学習指導要領の中で位置づければ、学校の先生もやりやすくなると思う。21世紀は「心の健康の時代」と世界的に言われており、治療より予防が重要。医療機関ができる治療と早期治療に関するコンサルティングには、限界がある。一方、学校は予防において重要となるが、学校だけでは難しい。1校に精神科医1人の導入は難しいので、学校をプラットフォームにしたチームを、地域の中でどのように集めるかが重要である。

[2]多職種共有のための人材育成

  • 発達障害と思われる症状において、頻度は低いが脳腫瘍が有ることもある。そのような子どもたちを保育・教育等の医療以外でフォローするのは難しい。発見が必要となる子が漏れてしまうため、医療は必ず噛まなければならないと考えているが、一方で全員を医療で見ていくのも難しい。一般的に発達障害および発達障害の疑いがある子は、20数パーセントいる。治療の中で、段階的に必要な支援に結び付けることと、地域にかかりつけのチームを作っていくことが重要である。人材育成は、ガイドラインをベースに支援ができる仕組みをつくり、対応できる人々が地域に広がっていくことが求められる。医療と教育が協働できるシステムを作り、研修時に経験できる仕組みが必要。
  • 新しい提案や取り込みも大切だが、今あるものをどれだけうまく使うかという発想もすごく大事。既存の仕組みの中に、なるべく難しくないものを取り込み、そこに新しいものを積み上げていくと良いと思う。各学校には特別支援教育コーディネーターがおり、特別支援学校が各学校を巡回する仕組みが既にできているが、地域でどの程度活用されているかについては、自治体格差がある。まずは教育の中で制度化されたものをブラッシュアップできる仕組みを作り、うまく活用してほしいと思っている。
    また、学校で内向的なタイプや発達の特性の強い子を、どのように見ていくかについて。1つは通常クラスでどんな風に過ごせるのか。もう1つは別の環境を用意する必要がある際、その子に合わせたカスタマイズが、どの程度できるか。普通のクラスにいる子で、友達と十分関係を築けていても、皆がやっている量の宿題や、学校行事などの活動が難しい場合、その子だけ宿題の量を減らす等ができるのか、という問題がある。個別の課題設定はダメという先生にあたれば、支援学級に行く子もいる。ただし、特別支援学級の運用は、地方自治体によってかなり格差がある。年度初めなら、子ども一人のために常設の特別支援学級を新設できる自治体もある。地方はその点が柔軟で、珍しいことではない。一方、東京では、特別支援学級の新設は選択肢になく、選択できるのは週1回の通級。支援学級のある学校も多くないので、このような枠組みの中で発達障害の子たちを支援するのは難しい。自治体格差が大きいということを当事者の人にはぜひ知っておいてほしい。
    さらに、普通学級が難しく、特別支援学級(知的障害)へ行くときに気をつけなければならないのは、社会・理科の学習へ進めなかったり、知的レベルが高いと療育手帳がもらえなかったりすることである。その場合、障害者としてのサービスも、きちんとした教育も受けられない。教員は、特別支援学級(知的障害)に行かせる時、教育も障害福祉サービスも受けられない人を作っている可能性を理解した上で判断してほしいと思う。
  • 人をかき集めれば勝手にチームができるわけではなく、チームになるプロセス(チーミング)が重要であることを教わった。価値共有や共同作業の経験は非常に重要で、他領域で働く先生に対し、カンファレンスやケース会議等を通じて、お互いの考え方や方向性を考える仕掛けを作っているのだと思う。外岡先生の事例の中で、教育委員会の指導主事が間に入っていることについて、指導主事が管理職になった時に、医療と教育の連携を進めていく際の留意点が継承されていくのだと思う。
    地方自治体においてより良い仕組みを作っていくために、現存の取組を機能化させ、その上にハイスペックな支援をのせていくと新たに機能しやすくなる。そのためには冷静な分析と、最初の段階からのアウトカムを想定すべきである。既に、特別支援教育コーディネーター、特別支援学校のセンター的機能、通級指導教室のエリア支援モデルがあるので、まずはそれらを十分に活用すべきではないか。普通の学級で過ごせるタイプの子が、行事や日々の生活行動の中で微調整を行えるかどうか、そして学校の先生には、当該児童と一緒に過ごす周りの人との間で折り合いをつけられる交渉能力を是非つけてもらいたいという事が含まれていた。「学級経営能力」と一口にまとめるが、折り合いをつけ、お互い様ということを許容できる文化の醸成も含めて、手立てを具体的に考えることが必要。少しずつ意識の高い先生との間で積み上げを図りたいと思った。

[3]地域での仕組みづくり

  • センターでは、学校の先生も含めた職員の仲が良く、皆でカンファレンスしながら子どもたちを支援している。そもそも、センター職員が突然知らない学校の先生の所に行って話しても、そこまで理解し合えない。その点、年単位のスパンで一緒にやっていく先生は、お互いの考え方がよく分かるので良いと思う。センターに教員を配置することについて、県の教育委員会や医師会等の力も借りて働きかけた。この連携体制がなければ、ここまで出来なかったと思う。自閉症の程度が診断閾下にある子は、おそらく、通常の生活場面で上手に支援ができれば発達障害ではない方向に行くと思うので、そのような支援を広くできればと思っている。上手くいかない環境だと、それをすべて発達障害の特性と考えてしまうので、適切な支援に行きつけるようにしたいと思う。
  • 発達障害に関する研究は色々なところで行われているが、個人レベルで出来る事には限界があるので、持続可能なシステムが必要である。学校なら、先生や校長が変わっても継承していくことが重要。かかりつけ医が発達障害に地域で対応していくための(国の研究機関による)研修では、必ず専門医と行政職員のセットで来てもらい、研修内容も地域に反映させるようにした。国に言われたからやるのではなく、まず自分たちの地域を診断し、何が必要かを判断した上で、限られた財源・人材の中で効率よく行うべき。マジョリティではない人々に対し、公的サービスとしてやる以上、社会全体を良くする必要がある。海外では、診断より早く支援を開始する場合、ペアレントトレーニングとドッキングさせている。診断閾下の人々に対して予防を行うことで、その人は将来自立していける。自立できる人を増やすためのターゲットは、発達障害を持つ人よりも、閾値以下の人である。最近では費用対効果の研究は、医療の診断がついた人だけではなくなってきている。我々がそういう社会を維持するためには、経済的なメリットが必要であり、また支援を受けながら最大限の自立を果たすため、医療・教育・福祉いずれの分野も、目指すところを一緒にしないと取り組めない。日本の医療は、まだ費用対効果の考えまでいかないが、ぜひ皆さんとつくっていけたらと思う。
  • 行政とタイアップして社会実験を進めていく必要があると思う。特に子育て支援の保育について、うまく子どもと関わるためのプログラムを、街角で提供しようと思っている。「買い物の待ち時間10分でロールプレイをすると、(養育者の)今日の声がけが変わる」というものをパッケージ化して無償で提供することが、トータルで社会的損失を減らすばかりでなく、社会的効用を高めることになるため、そこを真のエンドポイントとしてデータを取っていく。市民参画の形で肯定的価値を生み出す時代になっているが、研究の領域、専門実践の領域、市民生活について、サイエンスアゴラのような場でないと、なかなか語ることができない。社会実験から社会実装へと取組を広範に作り出していく時期に来ているのではないか。行政職員やNPO運営者がいれば、ぜひとも研究所等にアクセスしてほしい。
  • 「気付いたら診断」ではなく「気付いたら支援」といわれて長いが、約30%の子が、気になる状態のまま、学校・幼稚園へ就学する。その中には、おそらく診断に至らない子達も十分含まれていると思う。気づいたらすぐに支援が出来るよう、通常の学級や保育所・幼稚園でできる支援から、段階的に色々と考えていけるような仕組みが重要。トリアージュという言葉も使われていたが、本当に必要な子ども達をピックアウトできる仕組みが社会の中に出来上がったらよいと思う。
  • RISTEXの活動の中で社会実装を教えてもらった。「医療は目の前の人を良くすることだ」という教育を受けてきたので社会をイメージできなかった。良い治療があっても、そこに届かない人が圧倒的に多い中で、公的サービスとして全ての人が受けられるようにすることが必要。社会・行政・地域とタイアップした研究の経験は、研究者でも少ないので大事だと思う。

[フロアとの対話]

  • チームでこの問題に向かっていくという話があったが、医療・教育現場とは別の団体が関わることを見据えて考えても良いかもしれない。学校にはなじめないが科学が好きで、科学館の居心地が良い子がおり、科学館の新しい機能になりうると思った。
  • ライフステージに応じた切れ目のない支援という縦の連携、関係機関の横の連携が大事だという事に異議を唱える人はいないと思うが、やはり縦と横の連携をコーディネートすること(調整力)が大切。教育の場面では、多くの子が保育・幼稚園の頃から困り感を持っていることがある。しかし、横の連携と言いながらも中々伝わらないし、伝えきれていないので、地域のセンターにも調整力が必要だと強く思った。

全体まとめ

全体まとめ(グラフィック)

これまでのシンポジウム

【第1弾】

【第2弾】

参考

RISTEXが支援する(過去支援したものも含む)発達障害支援に関する研究開発のうち、シンポジウムと関連するプロジェクトを以下に掲載しております。

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