【フォローアップ】災害から命を守る「逃げ地図」づくり出版記念「逃げ地図」シンポジウム

開催日:2019年(令和元年)12月2日(月)
会場:明治大学駿河台校舎グローバルホール(東京都千代田区)

「多様な災害からの逃げ地図作成を通した世代間・地域間の連携促進」
(平成26年度~平成29年度実施)

RISTEXでは領域等の終了後、成果の継続や展開を支援するため「フォローアップ」を行っています。その一環として今回は、『コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造』研究開発領域平成26年度採択の、「多様な災害からの逃げ地図作成を通した世代間・地域間の連携促進」プロジェクトに伺いました。

このプロジェクトが取り組んだのは、「逃げ地図」という防災ツールのワークショップ手法です。今年11月には、待望の書籍『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』を刊行。関係者の皆様にご登壇いただく、出版記念シンポジウムを開催しました。

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予想を超えて 広まった「逃げ地図」。
子どもたちが防災を変えていった例も

『逃げ地図ウェブ』でのマニュアル公開から2年。本年末までに「逃げ地図」ワークショップを実践した自治体は、全国21都道府県、41市区町にのぼります。
「私たちが把握しているものだけで、この数です」 添えられた一言が何のことかといえば、「予想していなかった広がりかたをして、地域や用途に合わせた意外な活用をしていただき、知らないうちにコミュニティまでできていることも」という状況なのだそうです。
シンポジウム前半は、そんなふうに勝手に広まってしまうほどの「逃げ地図」の魅力から。作成手法を考案した羽鳥氏の脳裏にアイデアが閃いた瞬間の、くすっと笑えるエピソードや、ワークショップをアレンジし「逃げるときに誰かを助けるべきか」という倫理的な問題を盛り込んだ例などが紹介されました。
中でも神髄といえるのが、子どもたちがリスク・コミュニケーションを主導していった例です。
「津波からの避難所が、浸水域に入っている」
「お寺が避難場所になっているけど、防災用品は置いていないのでは?」
そんな実情を子どもたちに指摘され、大人たちが防災計画を見直したケースがあったといいます。

後半は、実施されたワークショップの例や、そこから得られた知見を中心に。
「逃げ地図」を適用できる災害の範囲は幅広く、地震火災や土砂災害、豪雨などにも有効です。学校で用いられた際には、「自宅までの逃げ地図」を作成したケースもありました。広域にわたる災害では、自動車を使った場合の「逃げ地図」も考えられるでしょう。
取り組む人もまた、全国規模の組織、日本語がネイティブでない住人と、多彩になりつつあります。そして今回は、「逃げ地図」づくりをより楽しいものにする、「Mappin Drop」というツールの紹介もありました。

今年、各地で大きな被害をもたらした台風19号の際、たとえば「逃げ地図」をベースに地区防災計画を立案した秩父市では、大きな被害を出さずにすみました。「逃げ地図のおかげ」と言い切ることはできませんが、「逃げ地図がどう活かされたか」つまり、「防災計画はどう役立てられたか」の振り返りはできます。
「逃げ地図」ワークショップを起点にPDCAを回すことで、個人とコミュニティの防災力を上げてゆく。さまざまな災害に対して、さまざまな規模で、このツールが有効に使われることを今後も期待したいと思います。

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第1部 逃げ地図づくりのススメ
編集著者らが語る「逃げ地図」の内容と「逃げ地図」づくりのススメ

浦谷 収(株式会社ぎょうせい 出版企画部 企画課)
木下 勇(千葉大学大学院教授, 子ども安全まちづくりパートナーズ理事)
羽鳥 達也(株式会社日建設計 設計部門 ダイレクターアーキテクト)
森脇 環帆(小田原短期大学 助教, 子ども安全まちづくりパートナーズ 事務局長)
山本 俊哉(明治大学 教授, 子ども安全まちづくりパートナーズ 代表理事)

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第2部 逃げ地図づくりの全国展開
今年1年間の全国の「逃げ地図」づくりの主な取り組みをトークリレー
(発言順)
進士 弘幸(静岡県下田市立朝日小学校評議員,建築家)
神谷 秀美(株式会社マヌ都市建築研究所取締役主席研究員)
川谷 朋寛(公益社団法人日本青年会議所 国土強靭化委員会委員長, 神戸青年会議所)
更谷 一徳(公益社団法人日本青年会議所 国土強靭化委員会副委員長, 大阪青年会議所)
綾垣 一幸(公益社団法人日本青年会議所 国土強靭化委員会副委員長, 横浜青年会議所)
北川 正巳(株式会社パスコ 事業推進本部 事業推進部長)
井上 雅子(セコム(株)IS研究所研究員, 子ども安全まちづくりパートナーズ研究員)

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(写真右)研究代表者の木下先生と、(写真左)「逃げ地図」の全国展開を牽引する子ども安全まちづくりパートナーズ代表理事の山本先生。

※所属・役職は、取材当時のものです。
(文責:RISTEX広報)

書籍紹介

今回、書籍としてまとめられた内容は、マニュアルではカバーしきれない部分を多く含みます。ワークショップのやり方は、たとえば扱う災害の種類、地域の特性、参加者の年齢などによって、実施されるかたがアレンジする必要があるでしょう。書籍では、具体的な調整の方法や、現場で生まれた工夫、生の声なども収録しています。
図書館など公共の施設に1冊あれば、みなさんで用立てていただけるのではないでしょうか。

Image『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』
編著:逃げ地図づくりプロジェクトチーム
出版社:株式会社ぎょうせい
定価:1,760円(税込み)
サイズ:A5判/216ページ
ISBN :978-4-324-10714-0
出版社サイト(購入先リンク)

目次
「逃げ地図」とは何か。なぜ生まれたのか。
第1章 逃げ地図のつくり方―基本編
第2章 逃げ地図づくりのはじめかた―地域編
第3章 逃げ地図づくりのはじめかた―学校編
第4章 災害ごとで見る逃げ地図のつくりかた―事例編
・津波
・土砂災害
・洪水
・地震火事
第5章 逃げ地図のその先
・逃げ地図を活かした遊びながら学ぶ防災
・逃げ地図のデジタル化
・逃げ地図づくりから地区防災計画へ
第6章 逃げ地図づくりのすゝめ

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