【プロジェクト訪問】医療機関と地元住民が参加する「楽しい防災訓練」。マニュアルから「傷シール」までダウンロード無料で、誰でも運営可能な超低コスト開催

開催日:2019年(平成30年)2月3日(月・祝)
会場:東京医科大学八王子医療センター(東京都八王子市)

地元の参加者から「訓練なのに楽しい」とリピーターが生まれるほどの、ユニークな災害医療救護訓練があります。震災などの大災害発生時を想定した、トリアージを含む本格的な防災訓練で、医療救護所設営マニュアルなどの必要なツールはすべてホームページ「災害医療」から無料ダウンロード可能。東京都八王子市の医療機関では既にデファクト・スタンダードとなり、新宿区をはじめ他の実装地域でも高い評価を得ています。
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大震災が発生したら、地元の医療体制はどうなる?
リアルすぎる再現で開催する、災害医療救護訓練

この日東京医科大学八王子医療センターで開催された訓練は、八王子医師会、薬剤師会、歯科医師会をはじめ、市の職員や地元のボランティアのみなさん総勢185名(見学者を除いた「役割を持つ」訓練参加者数)にお集まりいただいた大がかりなものでした。駐車場に緊急医療救護所が設営され、震度7の地震が発生したという想定のもと、訓練が始まります。
近くの薬剤センターで待機していた傷病者役33名が、訓練開始と同時に救護所へ「殺到」。受付のトリアージエリアで医師が待機し、誘導担当のボランティアのみなさんがトリアージの結果に応じて診療テントへの誘導を行います。大きな災害が発生した際には、短時間で多くの傷病者が発生し、医療関係者だけでは対応しきれなくなります。被災を免れた地元のみなさんに、傷病者の搬送や誘導等をお願いすることになりますから、こうした訓練は必須です。

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「傷病者役」となった地元参加者は、ムラージュシール(傷シール)を貼り、「傷病者症例カード」に沿った演技指導を受けます。「階段で将棋倒し」「料理中で熱湯を被った」などのシチュエーションから、「意識はあるけどぐったりして、呼吸は1分に30回以上、痛がるタイミングは......」といった症状、さらに「『早くこっち診ろよ!』と怒鳴る」など不安の表現まで。皆さんの演技は、とても「演技」とは思えないほど真に迫っていました。閉会式では「演技賞」も発表されますが、全員に演技賞! と思うほどのリアルさです。

災害医療救護訓練を開催するハードルのひとつとして、質の高い傷病者役を確保する難しさが挙げられます。しかし、「傷病者症例カード」を読み込んだ地元参加者の演技はリアルそのもの。「頭が痛い!」と迫真の「急変」演技をしていただいた男性には、搬送役数人が本気でおろおろ。ひとりが「あっ、『急変』?」と言葉を発するまで数秒を要しました。訓練で一度経験しておけば、本当に災害が発生したときも落ち着いて行動できそうです。

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たとえばストレッチャーに乗るのも乗せるのも、滅多にない体験です。多くの関連機関や地元の町内会のみなさんにご参加いただき、実際の災害発生時に使われるであろう設備や体制を再現しての真剣な訓練となりました。
とはいえ、休憩時間にはお汁粉が振舞われたり、はしご車のデモンストレーションがあったりと、リラックスした時間が。実はこれも、「開催のノウハウ」のひとつです。ちょっとした楽しみが、「堅苦しい訓練への参加」という義務感をぐっと和らげてくれるとか。

「1度目の訓練」を正しく評価し、「2度目」で改善
楽しみながら災害時の医療について学ぶ

「1度目」の訓練のあと、評価を行い、「2度目」を開催します。
トリアージの質問や傷病者の誘導などには、普段のコミュニケーションとはまた違ったコツがあります。もちろんマニュアルはありますが、実際に訓練をしてみると、思うように動けないことも少なくありません。そこで、1度目の訓練を受けて、傷病者役への対応や周囲との連携が適切であったか話し合い、2度目の訓練を行っています。
医療救護訓練では、傷病者役の演技の精度が訓練の質を決めます。そのためこの訓練では、閉会式で「演技賞」の表彰を行うことをお伝えし、恥ずかしがらずに傷病者を演じてほしいとお願いしています。
2度目の訓練。傷病者のみなさんには、「1度目」よりさらに迫真の演技で、発災時の救護施設を再現していただけました。

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閉会式での、演技賞受賞風景。運営側のアレンジで、雛形となった訓練プログラムより表彰者数を大幅に増やしたとのことで、10名を表彰させていただきました。これは盛り上がるし、演技にも気合が入りますよね! 傷病者の演技の精度が高いと、参加者全体の熱意が上がると共に、訓練の医学的な質も間違いなく上がるのだそうです。おかげさまで、質の良い有意義な災害医療救護訓練になりました。

この災害医療救護訓練は、RISTEXの「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」研究開発領域の「災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発」プロジェクトでその方法論の開発を行いました。動線に無駄がないレイアウトの緊急医療救護所や、短時間で正確な遣り取りを可能とする診察や指示の方法を、経験則ではなく科学的指針に基づいたノウハウとしてまとめ、誰でも活用できるマニュアルとして無料公開しています。一方で、エンタテインメントの要素を含む教育である「エデュテインメント」指向のプログラムです。

現在は「研究開発成果実装支援プログラム【公募型】」で「市民と共に進める災害医療救護訓練プログラムの実装」プロジェクトとして、普及活動を行っています。実際、その質の高さと使いやすさが評価され、八王子市内で多くの医療機関に広まり、長野市(長野県)、佐倉市(千葉県)等の行政・医療機関でも複数年の継続利用が進んでいます。
小中学校やショッピングモールなど、災害時に救護施設が設けられる場所でもご活用いただけますし、ムラージュシールと「傷病者症例カード」だけを使って「もし怪我人が出たら」という訓練もできるでしょう。

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ムラージュシールの生々しさに、取材者は「これ、おばけ屋敷にも使えるのでは!」と盛り上がってしまいました。防災訓練で誰かがぺたっと貼るだけで、「もし怪我人が出たら」という小さな訓練にも使えそうです。どんなシールか、まずは無料ダウンロードサイト「災害医療」を覗いてみてくださいね。

ついでに災害時の医療や、医療関係者以外でもできる救護について、ちょっと考えてみていただくきっかけになれば幸いです。

※所属・役職は、取材当時のものです。
(文責:RISTEX広報 公開日:令和元年10月8日)

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