H25年度 採択課題

研究期間:
平成25年10月~平成28年9月

カテゴリーII

災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発

研究代表者
太田 祥一(東京医科大学救急医学講座 教授)

図:日本地図

写真:太田 祥一


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概要

都市部の災害発生に備え、その地域の住民だけでなく、勤務者・学生なども巻き込んだ各種訓練が近年実施され始めている。訓練実施には過大な労力を要するが、訓練の効果を科学的に解析して有用性を証明したり、指針作成、標準化につなげたりするような仕組みはできていない。同時に、訓練自体を興味深い内容にして、本来参加が期待される人々が積極的に参加するような仕掛けづくりも必要とされている。

本プロジェクトは、災害後急性期に発生する膨大な医療ニーズを如何に処理するかという観点から災害医療訓練を捉え、その効果を科学的に検証し、「減災につながる地域における自立した災害医療救護」を社会実装するためのマネジメント・ガイドラインを策定することを目的とする。

人流解析や会話分析を通じて訓練プログラムの洗練化、標準化を図り、いつでも、どこでも、だれでも、楽しく訓練参加ができるようなエデュテイメント性の高い訓練パッケージの構築を目指す。

目標

 

・急性期災害医療救護コミュニティ形成のための、一般市民に向けた災害医療の基本教育プログラムの策定。
・医療救護訓練の情報工学と会話分析による科学的な解析手法の開発。
・実データに基づく医療救護所などの空間構成の設計指針の策定。

関与する組織・団体

  • 独立行政法人産業技術総合総研究所 サービス工学研究センター
  • 工学院大学 建築学部
  • 東京都新宿区
  • 東京都福祉保健局 医療政策部 救急災害医療課
  • 新宿副都心エリア環境改善委員会
  • 公益財団法人東京防災救急協会
  • 社団法人新宿区医師会
  • 国立国際医療研究センター
  • 東京電機大学 情報環境学部
  • 関西外語大学
  • 神戸市看護大学
  • 京都橘大学

「コミュニティ」紹介

地域としての繋がりが弱く、医療救護訓練の参加者は行政とビル管理者などが中心となり、本来参加すべき地域住民・勤務者が積極的に参加するような状況にはない都市部のコミュニティ。

災害時に医療救護所が設置され、それを運営する区市町村単位のコミュニティ。実際に研究の中心対象になるのは新宿区、中野区、杉並区からなる東京都区西部の災害医療圏。

学校、町内会、ショッピングセンターなど、年に何度も実施されるような小さなイベントが行われるようなコミュニティ。

アプローチ

・訓練参加を誘うインセンティブのために訓練をイベント化することで、子どもまでを含むより多くの人が、急性期コミュニティにおいて最低限の協調を可能にする基礎を作る。
・医療救護訓練のトリアージポストなどを距離カメラで撮影すると同時に会話を録音し、その動きや会話を科学的に分析し、翌年の訓練やレイアウト設計にフィードバックする。
・医療救護所のトリアージポスト等のレイアウトに関して、実際の訓練データから得られた人流データを基に、その設計指針を検討する。

到達点と課題

  (H26年2月現在)

・中学生(可能なら小学校上学年)以上の全ての人々が身に付けていて欲しい最低限の医療知識や、災害時の医療を中心に助け合うような教育プログラムの不在。
・多地点から得られる不連続の動線データから、救護所のような広い空間の設計の最適化にも寄与する手法の不在。見知らぬ人同士が初めて会話する際に、意思疎通をよくする方法論の不在。
・現状の医療救護所等のレイアウト設計は、訓練実施者の経験や、既存のスペースの制約によるところが多く、そこに科学的な指針を与えられていない点。

アピールしたいこと

 

・義務や,強制的な側面が強い災害訓練において、医療救護の分野に関して、一般の人が親しんで参加できるような新たな訓練を作って行きたいと思います。
・今まで科学的に取り扱われることが少なかった医療救護訓練の現場を、実際に計測しながら定量的な評価手法を開発していきたいです。
・医療救護所等の災害拠点現場におけるレイアウト設計の指針は、今までのところありません。医療建築の技術を医学・情報工学と融合させながら、一定の指針作りを目指します。

メッセージ

救急医療では現場から医療が始まりますので、救命率向上のためには、正しい医療知識を正しく必要な人に伝えることがとても重要です。そのために、今まで様々な教育に取り組んできました。これは医療資源が圧倒的に不足する災害医療においてはさらに重要となることは論を待ちませんが、平時から関心を持ち続けることは難しいことで、訓練も義務的になることが多いと思います。本プロジェクトでは、科学的根拠に基づいた正しい災害医学(medicine)についての知識や技術を楽しく学ぶmedical edutainment (entertainment+education)=medutainmentがを実現・普及できるように、さまざまな関係機関と協力しながら取り組んでいきたいと考えています。

リンク

アウトカム(プロジェクトの成果)開く

災害時には防災な医療ニーズが発生するのに対して、医療資源が圧倒的に不足します。こうした事態に備え、大規模な災害対応訓練が大都市各地で実施されていますが、訓練効果の科学的な分析や解析結果を指針作成や標準化に結びつける仕組みはできていません。このプロジェクトでは、災害医療訓練の効果の科学的検証と、訓練に楽しんで参加ができる「Edutainment」性の高い訓練パッケージの作成に取り組みました。また、災害時の医療救護所設計指針も提案しました。

Point1
災害医療訓練パックを作成しました。

ノンメディカルな人たちでもメディカルな部分で踏まえるべきことを学べる機会を構築しました。代表的なものが、災害医療救護訓練に必要な全てを揃えた災害医療訓練パックです。中身は、①事前準備マニュアル、②訓練当日運用マニュアル、③アクションカード、④評価表及びアンケートテンプレート、⑤症例カード、⑥ムラージュシール画像などからなります。
 災害医療救護訓練は、適切な傷病者役の準備、訓練の評価、振り返りが簡単ではありません。トリアージ訓練には特に症状別の傷病者役が必須になります。本パッケージでは一般参加者でも傷病者を演じられる30人分の症例カードと即席の外傷シールを用意しました。自治体や災害関連病院の訓練では専門家の多数参加は現実的ではなく、少ない専門家でも訓練で習得でき、一般参加者も相互に評価し合える仕様にしました。現在はWebサイト「災害医療」(http://www.disaster-medutainment.jp/)で無料配布しています。
 また、カメラで撮影した訓練映像と音声から、トリアージが効率的に処置できるような人の流れを検証したり、医師とボランティアがより効果的にコミュニケーションが行える言葉の使い方を探索しました。

Point2
災害医療ガイドラインを作成しました。

けがをした人に遭遇したとき、見つけた人が支援行動を速やかに行うと傷病者の救命率が向上し、経過に好影響を与えることがわかっています。そこで、一般市民向けの災害医療の入門書となる災害医療ガイドラインを作成しました。また、災害時に設営される医療救護所の一般市民によるサポートを可能にする教科書「身をまもる、家族をまもる、地域をまもる 日常から役立つ -市民による災害医療時支援行動の指針」も作成しました。こちらも、Webサイト「災害医療」(http://www.disaster-medutainment.jp/)で無料ダウンロードが可能です。このガイドラインをもとに作成した災害医療学習ツールアプリ「災害医療タッチ」を使えば、スマフォやタブレットで誰でも楽しく災害医療を学習することができます。アプリはApp StoreとGoogle Playから無料ダウンロード可能です。このほか、一般の人ができる応急手当を学べられるように、止血法や長袖シャツを使った包帯法など応急手当関連の17動画をYouTubeで公開しました。

Point3
医療救護所設マニュアルを作成しました。

東京都区内を対象に、地域防災計画にもとづく医療救護所の設置場所を調査しました。施設名が示されていた15区、254カ所の設置場所のうち8割以上が学校施設でした。そこで、模型を使った調査により、医療救護所の設置が最も多くなるだろう小学校で設営するためのマニュアルを作成。トリアージエリアと、重症群から死亡群エリアなどの望ましい処置エリアの配置方法、家具レイアウト例を中心にまとめました。医療救護所の運営や傷病者、医療者の動線の考える上でも参考にもなる内容です。
 これまでに東京都、千葉県、埼玉県の各自治体に配布しました。今後は医療救護所マニュアル第二版をまとめ、配布する予定です。

Point4
ジュニア向け災害医療紹介アプリ「災害医療クエスト」を作成しました。

子どもが災害時の医療知識を持ち、自分の怪我への対処ができ、周りの人も助けられる教材を開発。メインターゲットの小学校高学年~中学生の関心をひくために最新の技術を導入した、新しい形の災害医療学習教材「災害医療クエスト」 を作成しました。医療救護所で出会った医師と一緒に行動するシナリオで、災害医療に関する課題を解決しながら学ぶゲームです。仮想空間と実空間を行き来しながら出題される課題に挑戦します。アプリはApp StoreまたはGoogle Playから無料ダウンロード可能です。

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