フィジカルAIシステムの研究開発 〜身体性を備えたAIとロボティクスの融合〜
エグゼクティブサマリー
このプロポーザルは、AIとロボティクスを融合した「フィジカルAI」の研究開発を進め、実環境に適応可能なロボット技術の革新を目指すものである。これにより、日本がロボティクス分野での国際競争力と社会的重要性を維持・向上させることを目的としている。フィジカルAIとは、センサーやアクチュエーターを介して環境と相互作用しつつ、知能を発達させる身体性を備えたAIを指す。この知能を中核に据え、自律的に行動、学習、判断を実行するAIロボットとこれを支えるシステム全体を「フィジカルAIシステム」と定義している。
フィジカルAIシステムは、非身体的なAIを対象とする従来のサイバー空間型AIとは異なり、物理的かつ社会的制約の下で実世界のタスク遂行や人間との協働に適応することが求められる。労働現場や日常生活、災害対応、高齢者支援などの分野で、身体性を備えた知能の導入が不可欠である。フィジカルAIは今後、ロボティクス技術の中心的役割を担うと考えられるが、本プロポーザルはその研究開発戦略を提案する。
フィジカルAIシステムに求められる能力を体系的に整理し、AIロボットの将来の技術発展の方向性を三つに定式化している。具体的には、タスク遂行の高度化、環境への適応性、人との共生の三方向である。各方向に対応し、AIロボットが発揮すべき価値特性を示し、それぞれの応用領域を想定したロボット像を提示している。
- タイプP(Performance性): 多様なタスクを自律的に学習し、正確に遂行する能力を備えたロボット。産業分野での精度作業や職人技の再現を可能にし、医療やサービスへの展開で人手不足問題に貢献する。
- タイプH(Humanoid性): 人間の意図や動作を理解し、相互作用を通じて学習・適応する能力を持つロボット。介護や教育の領域で協働し、自然な共生環境を構築する。
- タイプA(Adaptive性): 過酷で変動する環境にも安定して動作できる能力を持つロボット。農業や災害対応などの難易度の高い作業を代替・支援する。
ロボット技術は21世紀に入り急速に進化してきた。2010年代にはAI技術の進展が著しく、知覚能力が飛躍的に進化した。2020年代には生成AIが導入され、マルチモーダルな情報処理が可能となってきている。GoogleやOpenAIが実世界での動作制御を進めている中、日本のフィジカルAIの発展は遅れを取らないようにする必要がある。
提案される研究開発課題は以下の通りである:
- 実世界で適応的に動作するフィジカルAIの開発。
- 身体性を備えた知能の解明。
- 安全性の高いフィジカルAIシステムの構築。
- 社会・経済的影響に関する人文・社会科学研究。
これらの研究を基礎研究、社会的影響評価、オープンプラットフォーム整備、そして実環境模擬の競技会と連携させることが重要である。フィジカルAIの研究開発は製造業や介護、教育、交通、環境、災害対応などで労働力不足の補完や作業負担の軽減、生産性の向上に寄与する。身体性を備えた知能の研究は、ロボット技術のみならず、人間の知能理解にも貢献し、学術的発展の基盤形成につながる。ロボットの実環境適応能力向上を図ることで、日本のロボット技術の国際的な地位を強化することを目的としている。
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