戦略プロポーザル
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リアルワールド・ロボティクス ~開かれた環境に柔軟に適応するロボティクス学理基盤の創出~

エグゼクティブサマリー

本プロポーザルは、開かれた環境に柔軟に適応するロボットを実現するために、目指すべき方向性、重要な研究開発課題、および、研究開発の推進方法を提言するものである。

ロボット技術の革新は、少子高齢化、災害対応など、日本が直面する社会的課題に対し、非常に有効な解決手段の一つとなると期待されている。さまざまな分野における将来像が「ロボット新戦略」等にて掲げられているが、これらの将来像においては、工場の生産ラインのような「閉じた環境」ではなく、われわれが生活している、多様で動的な「開かれた環境」でさまざまな非定型の作業ができることが、ロボットに求められている。「開かれた環境」は、多種多様な要素からなり、これらが相互に影響を及ぼしあいながら、常に変化する環境である。

しかしながら従来のロボットの要素技術の性能を向上するのみでは、われわれが生活している開かれた環境に対処することは困難である。なぜなら、従来のロボットはセンサーにより未知の空間の情報を精密に測定してモデル化し、論理演算による行動計画に従い行動しているが、開かれた環境では、センサーがすべての情報を取得できない、さまざまな要素が複雑に関係しモデル化が困難である、状況が刻々と変化する、といった要因により、行動が破綻してしまうためである。

このような背景を踏まえ、本プロポーザルでは、将来の社会実装に向け、開かれた環境に適応できるロボットに関する基礎研究の推進と、基礎研究段階からの社会・経済的影響評価の推進を提案する。基礎研究では、適応する知能・適応する身体という二つのアプローチから、開かれた環境における多様性と動的な状況への対処に取り組む。ここでは、ロボットの知能面や身体面に関する研究を個別に推進するのではなく、双方が連携することで統合した適応するシステムとしてのロボットの研究を構築していくことが重要である。また、社会・経済的影響評価では、開かれた環境で人間と共存することを前提に考え、特に基礎研究段階から検討すべき研究課題として、ロボットに感じる安心、プライバシーの保護、社会とのインタラクション、および、新しい法制度の仕組み(責任分配)の四点を取り上げた。

研究開発基盤として、基礎研究を加速するオープンプラットフォームの構築、および、競技会型の研究開発の活用を提案する。ロボットのソフトウェアおよびハードウェアに関するオープンプラットフォームを提供することにより、ロボティクス研究に対して異分野からの研究者の参入を容易とし、システム統合に関する理論的基盤の確立が促進される。また、競技会型の研究開発により、研究成果の他チームによる再現や相互比較による有効性の検証が可能となり、基礎研究から応用研究や、さらには製品化への橋渡しが促進される。

開かれた環境に柔軟に適応するための研究開発や、ロボットに対する社会受容性の向上やルール作りに関する取り組みを基礎研究段階から実施することで、各応用分野で期待されるロボットの社会実装をいち早く実現し、わが国の産業競争力の向上に寄与するとともに、少子高齢化、多発する自然災害など、日本が直面する社会的課題に対して有効な解決手段の一つとなることを強く期待する。

※本文記載のURLは2022年6月時点のものです(特記ある場合を除く)。