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フィジカルAIシステム
エグゼクティブサマリー
AIとロボティクス分野の進展において今後重要となるであろう、フィジカル空間での影響力を持つAI(フィジカルAIシステム)に関する研究開発課題とその方向性について議論を行うワークショップを開催した。
フィジカルAIシステムとは、物理的環境と直接相互作用し、人間のように柔軟かつ適応的にタスクを遂行する能力を備えたAIロボットを指す。このシステムは、サイバー空間で成果を上げてきた従来のAI技術とは異なり、実世界での課題解決に向けた新たな価値を創出することが期待されている。
本ワークショップでは、主催側から、フィジカルAIの進化を「タイプP(多様なタスク遂行)」、「タイプA(多様な環境適応)」、「タイプH(人間との協働)」の三つのビジョンとして提示し、それらを実現するための研究開発課題の現状を発表いただいた。具体的には、基盤モデルの構築、筋骨格型ヒューマノイドや強化学習を活用したロコモーション技術の進化、マニピュレーション技術の高度化などが議論された。学理に関する基礎研究として、予測符号化・自由エネルギー原理を活用した認知ロボティクス、世界モデルの活用、触覚・力覚データを活用した環境適応能力の向上が重要な研究領域として挙げられた。
研究開発エコシステムについては、特に企業データの活用や社会実装のためのエコシステムの構築が求められ、プラットフォーム戦略の重要性が強調された。また、ロボカップをはじめとするコミュニティ育成のための継続的な取り組みの重要性も指摘された。日本のロボティクス事業の展開において、中小企業などの現場において多様なニーズが存在し、導入障壁を下げることでロボットの社会適用範囲が拡大する可能性があることを強調された。
総合討議では、ヒューマノイドロボットの現状について、海外ではヒューマノイドロボットが急速に発展し、強化学習や模倣学習、基盤モデルの活用が進んでいることが議論された。一方で、日本では予算の制約や独自技術にこだわる傾向が遅れの要因となっているが、まずはキャッチアップが必要であると指摘された。そのためには、ハードウエアにおいても国産モータやオープンハードウェアの開発を推進することが重要であるとの意見が出された。
また、ロボット基盤モデルの課題については、サービスロボットのスケーラビリティ確保が重要視された。大規模データを活用した基盤モデルの開発が米中で進む中で、日本の研究者はスケール化の面で不利な状況にあり、データ効率の向上やカリキュラム学習、シミュレーションの実環境適応など、別のアプローチの必要性が指摘された。
さらに、身体性に基づく知能の発展について、予測符号化や自由エネルギー理論を基盤とした認知発達の研究が重要であると議論された。特に、バイラテラル制御による模倣学習や解釈性の高い学習モデル、個体適応型の模倣学習が今後の課題として挙げられた。また、ロボットの柔軟な力制御や長期的な学習能力の強化が求められた。
最後に、新たな技術課題として、ロボット基盤技術の遅れを克服すること、身体性知能の深化、実世界への適応とスケーラビリティの確保が重要であることが確認された。また、社会・産業面での課題として、産業界との連携不足、コミュニティ形成と研究環境の強化が求められた。
※本文記載のURLは、2025年3月末時点のものです(特記ある場合を除く)。