第276回「社会のスマート化 通信・計算、一体で対応」
近年、第5世代通信(5G)などの通信技術に加えて、クラウドコンピューティングやAI(人工知能)などのような計算技術が急速に発展してきた。それに伴い、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたサイバーフィジカルシステムが現実のものとなってきた。
制約から解放
職場に出向かなくとも仕事ができる(遠隔化)、運転しなくとも目的地に行ける(自動化)、人手に頼らなくとも業務や家事ができる(省力化)など、さまざまな制約から解放される世界の実現を目指し、社会全体の利便性や生活の質を向上させる社会のスマート化がさらに進むことへの期待が高まっている。
一方で、スマート化には膨大な量の通信と計算が必要となる。しかし、それらを実行するための通信や計算のリソースは有限であり、利用効率を高める必要がある。また、スマート化を実現するためのシステムは社会インフラとして重要になってきており、増大する消費電力を抑えることや、災害などによって使えなくなった場合にはシステムを迅速に回復させることも求められる。
これらの課題を解決するため、通信と計算を一体的に考えた取り組みが始まっている。例えば、リソースの利用効率を高める対応として、計算リソースを種類ごとに集めておき、処理に必要な通信量や計算量をAIで予測し、必要最小限の装置および通信回線を組み合わせたサーバーを新たに作って処理を実行することがあげられる。
処理を分散
また、通信基地局のほか自動車やロボットなどに計算機能を組み込み、AIのための学習処理や、センサーで得たデータから走行状態などを把握するセンシング処理を実行することで、クラウドに処理を集中させずにさまざまな装置に分散させるエッジコンピューティングもある。
消費電力の抑制に向けては、通信や計算の負荷状況をモニターしておき、AIを活用して装置をこまめにオン・オフする取り組みがある。
また、災害への対応に向けては、適切な通信経路をAIで推定し、無人航空機や多数の人工衛星を経由して通信することが目指されているほか、宇宙空間で計算をする宇宙データセンターの構想もある。
今後、デジタルツイン(3次元仮想空間の中に現実世界を再現する仕組み)、自動運転、メタバース(仕事や遊びを3次元仮想空間の中で実現させる仕組み)といった新しい社会基盤のより一層のスマート化には、通信と計算を一体的に考えていくことが重要になる。
※本記事は 日刊工業新聞2025年2月14日号に掲載されたものです。
<執筆者>
平池 龍一 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)
京都大学大学院工学研究科修了。電機メーカーに入社後、同社インターネットシステム研究所、ITサービス技術本部技術戦略部、ビジュアルインテリジェンス研究所などを経て、2024年1月より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(276)社会のスマート化 通信・計算、一体で対応(外部リンク)