- 情報・システム
通信と計算の融合による社会のスマート化
エグゼクティブサマリー
本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センター(CRDS)が令和6年5月28日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ「通信と計算の融合による社会のスマート化」の内容をまとめたものである。
近年、光回線や5Gなどの通信技術、クラウドやGPUといった計算技術の発展により、実世界にある大量かつ多様なデータをサイバー空間で処理・分析し、その結果を実世界にフィードバックして社会問題を解決していくサイバーフィジカルシステムが現実のものとなってきた。これらがもたらす遠隔化、自動化、省力化等が社会のスマート化を加速しており、今後、デジタルツイン、自動運転、メタバースなどさらなる発展が期待されている。一方、システムの高度化に伴う消費電力の増大や、複雑化に伴う運用の難しさといった問題にも、合わせて対処していくことが求められている。また、大量かつ多様なデータの活用が競争力の源泉ともなっている中、データの提供/ 利用における権利・安全性にも配慮することが必要である。
このような問題認識を踏まえ、今後取り組むべき研究開発課題について、①状況や意図を捉えて通信・計算を効率化する技術、②データを獲得源の近くで利活用する技術、③環境配慮や安全安心とバランスさせる技術、④データ利活用に関する社会科学的対策の四つを仮説として示した。
本ワークショップでは、話題提供と総合討論を通して、これらの仮説を検証し、推進策を含めて内容の深化に向けて議論した。
話題提供では、推進を含めた全体像と、仮説として立てた四つの研究開発課題に沿って、「社会課題全体を踏まえた研究開発および推進の方向性」、「サイバーインフラにおける課題と通信・計算融合への期待」、「通信・計算融合によるサイバーフィジカルシステムの進展」、「AIとエッジコンピューティングにおける通信への要求」、「データ主権のための非中央集権に基づく処理の可能性」についての発表があった。
総合討論では、融合領域において裾野を広げる必要があり、そのためには研究プログラムをあまり変えず、幅広いテーマ群を定常的に実行していくのがよいという指摘があった。そして、テーマや課題の具体化に向けて通信の研究者と計算の研究者が膝を突き合わせて考え抜き、設定した“ワクワクする”課題を両者で必死に解くことが肝要であり、また、自分の専門ではないところ(相手の専門)は進化しないという前提を捨て、両者の成果(複数の研究成果)をステップ・バイ・ステップで切り出し、整合性を取りながら進める必要があるとのコメントを得た。「このような議論はこれまでにもあったが、継続が難しい」との経験談もある中、やり続けること、何か少しでも一歩、が重要との共通認識を得た。この“やり続ける”や“少しの一歩”として、グローバルで起きていることにアンテナを張り、国際的にいろいろと動いてみることの重要性も語られた。こういった動きが、先に述べた「裾野を広げる」ともつながり、結果として国際化・標準化そして人材強化の手掛かりになるとの指摘があった。
※本文記載のURLは2024年7月時点のものです(特記ある場合を除く)。