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創薬モダリティの潮流と展望

エグゼクティブサマリー

本調査報告書は、創薬モダリティ(=医薬品の種類)の研究開発潮流と今後の展望について、国内外の動向を調査・分析した結果をまとめたものである。

第1章では、創薬モダリティに関連する定量的なデータを中心に整理した。1990年代以降、世界の医薬品市場は右肩上がりの成長を遂げており、今後も更なる成長が予想される。その背景には、低分子医薬や抗体医薬などの創薬モダリティの更なる市場規模拡大に加え、新しいタイプの創薬モダリティ(核酸医薬、in vivo遺伝子治療、ex vivo遺伝子治療、mRNAワクチン)が次々と確立し、新たに市場を形成する見込みである点も大きい。それら新しいタイプの創薬モダリティは、20年〜30年間に亘る基礎研究〜臨床開発が漸く実を結び、2010年代後半より次々と上市され、1,000億円以上の売り上げとなる大型製品(ブロックバスター)も登場するに至ったものである。このように、医薬品市場は右肩上がりとも言える状況であるが、わが国は多くの問題を抱えており、その大きな動きに取り残されつつある。

第2章では、多様な創薬モダリティの1つ1つについて、国内外の研究開発潮流や、わが国において重要と考えられるトピックを整理した。従来型の創薬モダリティ(低分子医薬、タンパク/ペプチド医薬、抗体医薬)、新しいタイプの創薬モダリティ、現時点で市場形成には至っていないが今後期待される創薬モダリティ(細胞治療[再生医療]、微生物製剤治療[ウイルス製剤、細菌製剤]など)について、わが国においても重点的に研究開発を進める必要がある。創薬モダリティそのものの研究開発だけでなく、創薬関連技術の重要性も高い。本調査報告書では、時空間動態制御技術[DDS、次世代送達技術]、医薬品等の評価技術[MPS、大型動物など](※)、AI/in silico創薬技術、ゲノム創薬についても整理した。

第3章では、第2章で述べた創薬モダリティについて横断的な分析を試み、わが国で取り組むべき方向性を抽出した。創薬モダリティを横断的にみると、複数のモダリティで共通する先鋭化の方向性があり、かつ複数の創薬モダリティの融合化の方向性も見出された。これからの創薬モダリティは、先鋭化と融合の両方の視点が重要であり、わが国においてそれらを踏まえた研究開発の推進が重要である。長期的には創薬モダリティ間の競合や役割分担が進む可能性も予見され、創薬モダリティ全体を俯瞰した上での研究開発戦略の立案は重要性を増すと思われる。

第4章では、第3章で述べた重要な方向性のうち、「次世代送達技術」について、歴史的背景を整理しつつ現状を分析し、わが国で取り組むべき具体的な課題群を述べた。

付録では、創薬を進める上で必要不可欠な「生命科学/疾患研究」および「創薬基盤/エコシステム(とくに高品質な開発候補品の創製と医学研究の強化)」についても、重要と思われることを述べた。

(※)JST-CRDS調査報告書「医薬品評価技術の新展開 ~ヒト代替評価系の確立へ~」(2025年2月刊行)

※本文記載のURLは、2025年1月末時点のものです(特記ある場合を除く)。