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日本語仮訳:COVID-19、レジリエンスと科学・政策・社会の接点 OECD科学技術産業政策ポリシーペーパー(155 号)

エグゼクティブサマリー

本報告書は、経済協力開発機構(OECD)のグローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)におけるプロジェクト“Mobilising Science in Response to Crisis:Lessons Learned from COVID-19(危機対応における科学の動員:新型コロナウイルス感染症からの教訓)”の成果を取りまとめた報告書3部作のうち、総括的内容を扱う最終巻である。

2019年末から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行(パンデミック)は、世界各国の人々の生命と健康、社会経済に大きな影響をもたらした。

この危機への対応において、様々な面で科学技術の成果や知見を活用する取り組みが行われた。各国で、未知のウイルスの特定や解析、診断・治療法の開発、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン開発などが行われた。また、経済活動の制限、リモートワークや遠隔授業など、人流の抑制や人々の行動変容を通じて感染を抑える公衆衛生・社会的対策(PHSM: Public Health and Social Measures)も多くの国で導入された。これらの対策の効果や影響について、データによる把握、人工知能(AI)やスーパーコンピュータを用いたシミュレーションによる予測、分析も行われた。

一方で、新型コロナ対策の取り組みは、科学技術そのものに対しても大きな影響を与えた。研究装置や施設、フィールドへの物理的アクセスが制限され、実験や観測が難しくなった。各国の渡航制限により、国際学会、留学や滞在研究の機会も減少した。一方、危機の中で、研究開発システムの変革も進んだ。例えば、新型コロナウイルス関連の研究を中心としてプレプリントが普及した。また、研究施設や設備といった研究インフラの無人化・リモート化、新型コロナウイルス関連の研究のデータの公開・共有なども進められた。

今回のパンデミックのような複合的な危機に対して、科学技術の効果的活用は、早期の実態把握や被害低減、迅速な復旧に貢献することが期待される。またそのためにも、研究開発システムや科学技術の知見・成果を活用するシステムの危機対応能力を高めることも必要である。このような問題意識のもとOECD/GSFは、パンデミックに対する各国の取り組みから将来の危機対応への教訓を得るため、「危機対応における科学動員:新型コロナウイルス感染症からの教訓」と題するプロジェクトをパンデミックの渦中である2020年10月から開始した。同プロジェクトには我が国を含む12カ国が参加し、十数回の専門家会合とサブテーマ別の6回の国際ワークショップなどを通じた調査検討を行い、2023年7月に全3巻からなる報告書をとりまとめた。


図1 OECD/GSF危機時の科学動員プロジェクトのプロセス

総括的内容を扱う本報告書では、他の2つの報告書が扱う6つのサブテーマ(データと情報、研究インフラ、科学と産業界の連携、優先事項の設定と調整、科学的助言、一般市民とのコミュニケーションと市民の関与)に共通する以下の5つのメタテーマについて、特定された課題、教訓、グッドプラクティスをまとめている。

  1. 科学的能力の機動的かつ戦略的な動員
  2. 科学における相反する優先事項と利害の管理
  3. ガバナンスのレベルを超えた調整と協力
  4. 学際共創的かつ省察的な科学
  5. 社会のための科学のダイナミックなシステム志向のガバナンス


図2 OECD科学動員プロジェクト各報告書のテーマと科学、政策と市民社会との関係

今回のパンデミックのような複合的な危機は、将来再び起こることが想定される。本報告書の知見は、政策立案者が将来の危機に備え、予測し、対応し、緩和するのに役立つものと思われる。また、現在進行中の危機や将来発生する危機の連鎖的な影響が顕在化する前に、そのすべてを予測することは不可能であるため、科学技術システム全体のレジリエンスの向上に焦点を当てることが重要である。本報告書の知見は、そのような取り組みに関する示唆を提供するものと考えられる。

※本文記載のURLは2024年2月時点のものです(特記ある場合を除く)。