2024年1月19日

第226回「危機対応と科学技術」

コロナの教訓
2019年末から続く新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(世界的大流行)への対応に際して、各国は基礎研究の蓄積や国際的な連携を生かし、未知のウイルスの特定や解析、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発を進めた。また、データやシミュレーションを用いた感染の予測や、対策の効果分析なども広く行われた。

このような科学技術の効果的な活用は、パンデミックのような複合的な危機において、早期の実態把握や被害低減、そして迅速な復旧に貢献することが期待される。経済協力開発機構(OECD)は、今回のパンデミックに対する各国の取り組みから将来の危機対応への教訓を得るため、「危機時の科学動員」と題する調査を行った。23年7月に、その結果を踏まえた提言を3巻の報告書として公表している(図)。

将来への備え
その主な内容としては、まず危機に強い研究開発システムの構築が挙げられている。研究データの共有や各組織が持つ情報へのアクセス強化、研究インフラ(研究装置や施設)の自動化やリモート化を通じて、危機時でも研究開発を行えるようにする。また、危機時の研究インフラ運用、研究協力や産学連携の方針をあらかじめ定めておくことも必要としている。

次に、危機時の被害軽減や復興を目的とした、政策に科学技術を活用する仕組みを強化すべきだとしている。例えば、危機の原因究明や被害予測などに役立つ研究の優先順位を決め、迅速に実施する仕組みが必要になる。

さらに、「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」のような、政策や対策の立案に専門家の持つ知見を活用する科学的助言の機能も強化すべきである。また、科学的知見に基づく対策が受け入れられるには、人々の理解と納得を得るためのコミュニケーションも重要である。

最後に、このような取り組みを、組織や研究分野の壁を越えた横断的な調整と連携により、円滑に実施できる体制が必要であるとしている。刻々と変化する状況を、科学的知見やデータを踏まえて把握し、機動的に対応するための仕組みや組織づくりに平時から取り組むことが求められる。

将来の複合的な危機に対して、英国は22年12月に「政府レジリエンス枠組み」を公表し取り組みを進めている。わが国でも23年9月に、内閣感染症危機管理統括庁が発足し、将来の感染症危機に対する政府行動計画の見直しを行っている。コロナ危機からの教訓を、将来の新たな危機への備えとしてどう具体化していくかが問われている。

※本記事は 日刊工業新聞2024年1月19日号に掲載されたものです。

<執筆者>
小山田 和仁 CRDSフェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)

東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。産業技術総合研究所、政策研究大学院大学などにて政策研究に従事。17年より現職。OECD「危機時の科学動員:新型コロナウイルスパンデミックからの教訓」プロジェクトにも参画。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(226)危機対応と科学技術(外部リンク)