調査報告書
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社会基盤としてのメタバースの可能性と課題

エグゼクティブサマリー

本報告書は、メタバースが社会のさまざまな分野で活用され始めている中、安心・安全と包摂性を備え、多様な人々が参加でき、さまざまな社会活動が行える新しい社会基盤としての役割を果たすメタバース「デジタル社会基盤メタバース」の可能性と課題をまとめたものである。

メタバースは、バーチャルリアリティー(VR:Virtual Reality)技術を用いて、没入感の高い3次元のバーチャル空間を提供する。利用者は、自身の分身であるアバターを使って、バーチャル空間内を自由に移動し、他人のアバターとコミュニケーションすることができる。メタバースには、人々を年齢や外見といった身体的な制約や場所の制約から解放し、新たな「身体」であるアバターを使って、外見を自由に選び、ジェスチャーなどの身体性を使ったコミュニケーションができる特長がある。バーチャル空間に作られた街で開催されるイベントに参加したり、遠隔地に住む生徒がバーチャル空間の教室で学んだりするなど、社会のさまざまな分野で活用され始めている。将来、メタバースの活用が広がり、多くの人々が日常生活の一部として利用するのであれば、新たな社会基盤としての役割を果たすメタバース「デジタル社会基盤メタバース」が求められる。

メタバースが社会基盤であるためには、誰もが「安心・安全」に利用できることと、誰もがその活動を通して社会参加できる「包摂性」が求められるが、現在のメタバースには問題がある。安心・安全の観点では、バーチャル空間でのアバターを使った活動が現実世界で操作する人の心身に及ぼす影響が明確になっていないことや、バーチャル空間での嫌がらせ、アバターのなりすましなどの不正行為が発生するといった問題がある。包摂性の観点では、アバターの外見や表情の乏しさのために意思疎通が難しく、誰もがコミュニティーで自分の意図に沿って活動することが難しいといった問題がある。また、社会課題の解決に取り組む研究者や自治体、NPOなどの実務者がメタバースを容易に利用できない問題もある。

アバターを使うメタバースでも、主役は、そこで活動する現実の人である。これらの問題を解決するためには、バーチャル空間でのアバターを介した人の認知・行動の解明する「人の理解」が重要となってくる。さらに、「人の理解」と連携して、安心・安全、包摂性を備えたメタバースを構築するための「システム技術」、メタバースでの活動の規則となる「法・規範」の研究開発を進める必要がある。

本報告書では、現在のメタバースの特長や活用状況、国内外の研究開発状況などをレビューし、「安心・安全」と「包摂性」を実現するために解決すべき問題点を整理した。さらに、問題点を解決するために取り組むべき課題の全体像、「人の理解」「システム技術」「法・規範」の3つの研究開発と推進の方向性を論じた。

※本文記載のURLは2023年5月時点のものです(特記ある場合を除く)。