2023年11月24日

第220回「メタバース 新たな社会基盤へ」

仮想空間を利用
近年、メタバースと呼ばれる、仮想現実(VR)技術を用いた没入感の高い3次元の仮想空間が活用されている。利用者は、自身の分身であるアバターを使って仮想空間内を自由に移動し、他人のアバターとコミュニケーションすることができる。これまでメタバースは、対戦型ゲームやアバターを使うウェブ上の交流サービスで利用されてきたが、コロナ禍を契機に活用の幅が広がった。

例えば、遠隔地から仮想空間に作られた「街」を訪れ、催しに参加したり買い物を楽しんだりすることができるようになった。さらに、学校を模した仮想空間で、生徒がアバターを使って授業を受けるといった新たな活用法も模索されている。

仮想空間は、人々を年齢や外見といった身体の制約や場所の制約から解放し、新たな「身体」であるアバターを通じて、これまでできなかった活動を可能にする。この特徴を生かして、社会のさまざまな分野で多くの人々が利用する、新たな社会基盤「デジタル社会基盤メタバース」となる可能性を秘めている。

誰もが参加
仮想空間を社会基盤として活用するためには、誰もが「安心・安全」に利用できることと、誰もが参加できる「包摂性」を備えることが不可欠である。現在のところ、メタバースにおけるアバターの使用が人の行動に及ぼす影響は明確になっておらず、仮想空間でのさまざまな不適切行為の発生も問題になっている。また、アバターの外見や表情の乏しさが意思疎通や行動に影響を与えることや、聴覚や視覚などに制約がある人が参加しにくいなどの包摂性に関する問題が指摘されている。

アバターを使うメタバースの主役は、そこで活動する現実の人である。「デジタル社会基盤メタバース」を実現するためには、安心・安全と包摂性の問題を解決する研究開発に取り組む必要がある。

例えば、アバターを介した人の認知や行動を理解するための研究を行うことが重要になってくる。また、仮想空間上で音声や文字、ジェスチャー、表情などを自在に使えるようにするための技術開発を推進することが必須である。さらには、不適切行為に対処する法や規範の在り方についても検討を進めることが必要である。

※本記事は 日刊工業新聞2023年11月24日号に掲載されたものです。

<執筆者>
福井 章人 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)

岡山大学大学院工学研究科修了。電気機器メーカーに入社後、有線系通信技術の研究開発、第3世代/第4世代移動体通信技術の研究開発・標準化、クラウドサービスの企画・開発に従事。2021年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(220)メタバース、新たな社会基盤へ(外部リンク)