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健康・医療トランスフォーメーション
科学技術・イノベーションの潮流
エグゼクティブサマリー
全世界で日々生成されるデータ量の約30%がヘルスケア関連(産業)により生み出されていると推定されている(RBC Capital Markets)。業界固有の最大の課題の1つは、データはあっても、サイロ化された状態であることである。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、サイロ化されたデータに光が当てられた。不正確な感染者数から、ウイルスの進行に関する病院間での非効率な情報共有まで、効果的なデータ相互運用性インフラストラクチャーの必要性がさらに明らかになった。米国や欧州のデータ戦略により、データの接続は今後数年間で劇的に増加する見込みとなっている。ChatGPT等の大規模言語モデル(LLM: large language model)が注目されているように、AIによる技術革新が顕著である。生成 AI は、医療にも大きな影響を与えつつある。製薬会社はすでにこの技術を導入して、合成患者データの生成、新規タンパク質の設計などを行っている。事前にトレーニングされたオープンな大規模言語モデルと、臨床データコレクションでトレーニングされたAIモデルを組み合わせ、診断・投薬・検査・理学所見など、あらゆる項目において高精度での構造化に成功している。
いくつかの調査会社の経済レポートによると、デジタルヘルスは年平均成長率20%近くで成長しており、2030年代には医薬品市場にせまると予想するものもある。
こうした状況を踏まえ、ここでは、今後社会・市民、健康・医療、研究開発のあり方を大きく変えていくであろう「健康・医療トランスフォーメーション」について、デジタルとバイオの関係から俯瞰した(下記図)。
図 データとデジタル技術による健康・医療トランスフォーメーションの俯瞰図
俯瞰から見えてきた4つのハイライトを挙げる。
1.モニタリングと行動変容の多様な展開
新しい診療形態としての遠隔モニタリング、分散型臨床試験、デジタルバイオマーカー、デジタル治療といったように予防から治療、診療形態まで、目的は異なれど、いずれもウェアラブル、スマホとクラウドやAIを組み合わせたような領域、あるいは市場が注目を集めている。
2.リアルワールドデータ・エビデンスの創薬活用
電子カルテやそれに類する病院で発生する様々なデータ群、あるいはスマホ、スマートウォッチから出てくるデータ、ゲノミクス、オミックスデータといった異種データを組み合わせて創薬のターゲット探索をするというのが大きな流れになっている。そのために異種データ相互運用が重要になっている。
3. 大規模言語モデルの活用
医療機関における臨床意思決定支援や製薬研究におけるタンパク質設計などに大規模言語モデルが使われ始めている。
4.プログラム生物学の台頭
AI創薬と言われてきた分野と合成生物学が邂逅しつつある。ここではプログラム生物学という言い方をしている。先に述べた標的探索とプログラム生物学による新薬開発とが結びついていくという潮流が見てとれる。
※本文記載のURLは2023年7月時点のものです(特記ある場合を除く)。