戦略プロポーザル
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情報・物理・数理の共創 ~非平衡ダイナミクスの理解が見せる新たな景色~

エグゼクティブサマリー

情報学や計算機科学と物理学との関係の深化が注目されている。情報処理のエネルギー効率と物理法則との関係はこれまでも長らく議論されてきたが、近年では物理学の概念・手法を情報学・計算機科学に応用する方向と、情報学・計算機科学の概念・手法から物理法則を理解するという方向の双方向の交流が理論・実験の両面で活性化している。

本プロポーザルでは、情報学・計算機科学と物理学を橋渡しするような学際的研究を進め、萌芽期にあるこの研究開発領域の成長と物理学・情報学におけるブレークスルーを目指し、以下3つの研究開発課題を提案する。

(1) 物理学の概念・手法を情報学・計算機科学に応用する
(2) 情報学・計算機科学の概念・手法を物理学に応用する
(3) 物理学と情報学・計算機科学をつなぐ数理基盤を構築する

物理の視点で見るとコンピュータは非平衡系であり、有限時間での熱力学的な状態遷移といえる計算のエネルギー効率の限界を扱うには理論枠組みまで立ち戻る必要がある。物理学上の新概念や新発見が新たな計算原理や新デバイスなどとしてブレークスルーにつながる可能性も高く、本研究開発領域の波及効果は基礎物理にとどまらず、量子技術から生命科学まで多岐にわたる。情報学・計算機科学のフロンティア拡大は、人材育成の面からも長期的なIT の発展に欠かせない。さらに、この研究開発によって生まれる学理基盤やツールは幅広い分野に波及し、低消費電力の計算やセキュアな情報処理として社会的課題の解決にも貢献が期待しうる。

国は基盤技術の研究開発と整備に加えて、新しい研究開発領域を担う人材・組織の育成やコミュニティの醸成などにも取り組む必要がある。本プロポーザルでは以下3つの推進方法を提案する。

(1) 先導的研究会の設立・運営の支援
(2) 国際的研究センターの構築
(3) 長期的視点のプロジェクト

本研究開発領域は萌芽的な状況であり、国際的にも研究コミュニティーが分かれている。そのため、まずは数理・情報と物理の間、量子情報と統計力学の間など、分野やコミュニティを跨がって問題意識の共有や議論が行える場が必要である(先導的研究会の設立・運営の支援)。また、このような議論を効果的・効率的に行うには、物理的に同じ場所にあつまることも大事な要素と考えられる。ワークショップや研究会として一時的に顔をあわせるだけでなく、特定の研究機関や組織に共通の帰属意識を持った中での議論醸成が望ましい(国際的研究センターの構築)。加えて、基礎的に重要な研究は1~3年程度の短期間では成果があがらない場合が多い。分野をまたがる融合的な研究の場合にはさらに時間が必要と考えられる。5年の任期で研究を進め、特に問題がなければ無条件に更新して10 年程度までは継続できるようなポジションが望まれる(長期的視点のプロジェクト)。

※本文記載のURLは2023年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。