2022年12月9日

第176回「実世界で働くロボ実現へ」

モラベック逆説
自動車工場の生産ラインで目にも止まらぬ速さでキビキビと働く産業用ロボットをご覧になったことがあるかもしれない。ロボットはこの半世紀で格段の進歩を遂げ、人の作業を代替する存在になった。しかし、一方で、災害現場のがれきの中では満足に歩くこともできず、扉を開けようとして転倒するぶざまな姿をさらけ出す。米国国防高等研究計画局が主催した、災害救助を想定したロボット競技大会でのことである。

今のロボットにできることは非常に限られている。モラベックの逆説として知られているように、人間にとって難しいと思われることが機械には簡単で、逆に、簡単と思われることが機械には難しいのである。

主な理由は、災害現場のような実環境は、多様性と変化とを伴う開かれた環境であり、従来、ロボットが活躍してきた工場のような限定された閉じた環境と大きく異なるからである。限定された環境では、事前に準備したシナリオに従って作動すればいいが、開かれた環境では、常に想定外の状況に対応しなければならず、環境を観察し、その変化を捉え、臨機応変に適応する必要がある。それが難しいのが今日のロボットの現実である。

AIで現状打開
この状況を打開するものとして期待されているのはAI(人工知能)技術である。AIは第3次ブームを迎え、音声・画像認識や翻訳から異常検知、予測に至るまで、さまざまな分野で人間の知的能力に匹敵、時には人間を超える能力を発揮しつつある。根本にあるのは機械学習というデータ(経験)から法則や傾向を学ぶ能力である。ロボットの研究は、AIの進化による成果を適用することで、様相を大きく変えようとしている。同時にAIの研究も、ロボットという身体を得ることで、さらなる飛躍が期待できる。

わが国は、ムーンショット型研究開発制度の中で「自ら学習・行動し、人と共生するAIロボット」を開始した。海外でも、米国は国家ロボティクス・イニシアチブ3.0が公募を開始し、中国も「第14次五カ年計画」でロボット産業発展計画を発表した。

いずれも人工知能などの情報技術とロボット技術の融合による技術進展と産業拡大を図る。

このような状況の中、わが国がロボット大国としての国際競争力を維持・拡大するためには、実世界で働くことのできるロボットの実現に向けて、基礎研究の推進、オープンプラットフォームの構築、米国で行われたような競技大会を開発に活用すること、基礎研究段階からの社会・経済的影響評価の研究を総合的に進める必要がある(図)。

※本記事は 日刊工業新聞2022年12月9日号に掲載されたものです。

<執筆者>
茂木 強 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)

京都大学理学部卒。三菱電機入社。計算機言語処理系などの開発を経て、情報技術総合研究所にて情報システム技術の研究開発や事業化に従事。米スタンフォード大学計算機科学科修士課程修了。2013年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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